Masaaki Wada (watercolor portrait by Jesus Guajardo)
作曲家 和田昌昭
Masaaki Wada
Composer
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  1. 機材
  2. 打込み
  3. 録音
  4. エフェクト
  5. 音源作成

音響技術1. 機材

DAW

DAWはDigital Audio Workstationの頭文字で,ディジタル信号処理を用いて音楽制作をするための装置一式を指すことばです.音楽スタジオにあるようなコンソールを含むハードウェア中心のDAWもありますが,ここで考えるのはパソコンを中心としたDAWで,次のコンポーネントからなります.

  1. コンピュータ
  2. 音楽制作用ソフトウェア
  3. オーディオインタフェイス
  4. MIDI入力装置
  5. モニタスピーカー

 

コンピュータ

コンピュータは大きく分けてPCとMacの2種類があります.Apple製Mac以外のパソコンはメーカーに関係なく基本ソフトとしてMicrosoft Windowsが搭載されており,Windows PCと呼ばれます.PC用ソフトはPCで,Mac用ソフトはMacでしか動きません.

僕が音楽制作で主に使っているコンピュータはMac Proです.MacBook ProにもDAWソフトがインストールしてあり,ライブの本格的な録音の時などに活躍します.

音楽制作を行うためのコンピュータはPCでもMacでもかまいません.最近のコンピュータであれば,コンピュータ自体の性能はどれでも十分ですが,メモリ(RAM)だけは多ければ多いほどよいです.2GBでは動かないソフトもありますし,動いても扱えるトラック数が少なすぎたり,動作が遅くてイライラすることになります.メモリの増設ができない機種もあるので注意が必要です.

録音中心の音楽制作を行う場合は,オーディオファイルがそこそこの容量になり,1曲あたり数GBのハードディスクスペースが必要です.また,上質の音源サンプルは数十GBの容量がありますから,ハードディスクの増設が必要になるかもしれません.でもハードディスクは外付けで追加してもいいですし,比較的安いですから,必要になってから考えてもいいと思います.

 

音楽制作用ソフトウェア(DAWソフト)

音楽制作で最も重要なコンポーネントがDAWソフトウェアです.

最近のDAWソフトはどれも機能が豊富で,使いこなすには膨大な時間と試行錯誤が必要です.複数のDAWソフトを使い分けるのは現実的ではなく,最終的にメインで使用するDAWソフトは一つということになると思います.従って,どのDAWソフトを選ぶかは非常に重要です.

使い方を習得するために必要な時間や労力を考えると,ソフトウェア自体の価格にあまり捕われる必要はないと思います.それより重要なのは次のような点でしょう.

僕自身は2005年ごろからずっとLogic Proを使っています.今はアップグレードしてLogic Pro Xになっています.

Macで本格的に音楽制作を始めるのであれば,Logic Pro Xを強くお勧めします.価格もリーズナブルですが,シーケンサー中心の音楽制作にも,録音中心の音楽制作にも対応するオールマイティーのDAWソフトで,各種シンセサイザーや音源サンプルなど,とりあえず必要なものが全部揃っています.AppleのソフトなのでOSのアップデートにいち早く対応しますし,何よりAppleならしばらく倒産しないだろうという安心感があります.

Macだけど音楽制作をちょっと試してみたいだけ,という場合はGarageBandが断然お勧めです.Macを買うと最初から無料で付いていますし,興味が出て本格的にやりたくなったらLogic Pro Xにアップグレードすることもできます.

他のソフトは実際に使ったことがありませんので何も責任を持って言えませんが,ネットで調べてポピュラーそうなもののうち名前を知っているものを下に挙げておきます.FL Studioはクラブ系音楽制作向き,LiveやReasonはループ素材を用いた音楽制作向きでしょうか.Pro Toolsはプロのスタジオ用ソフトが一般用に普及したもので,録音に関しては強力のようです.いずれも実際に使っている人から話を聞くのがいいと思います.

名前 PC Mac 価格* メモ
Image-Line FL Studio 11   28,000  
Ableton Live 9 68,000  
Apple Logic Pro X   20,000 ダウンロード販売
PreSonus Studio One 2 20,000  
Steinberg Cubase 7 60,000  
Propellerhead Reason 7 20,000  
TASCAM SONAR X3   60,000  
Avid Pro Tools 11 70,000  
Apple GarageBand '11   無料 追加素材¥500

 

オーディオインタフェイス

コンピュータで音声信号の入出力を行うためには,オーディオインタフェイスが必要です.

たいていのコンピュータには,マイクをつないで音声入力したり,ヘッドフォンやイヤホンをつないで音楽を聴いたりできるように,簡単なオーディオインタフェイスが内蔵されていますが,ノイズ,音の歪み,チャネル数などの面で,音楽制作には不足です.

少し本格的な音楽制作をしようとすると,専用のオーディオインタフェイスが必要になります.サウンドカードと呼ばれるパソコン内蔵型のオーディオインタフェイスもありますが,一般的なのは外付けオーディオインタフェイスです.USBなどでパソコンと接続します.

マイクで歌や楽器の演奏を録音したり,エレキギターやエレキベースの電気信号を直接入力したりしながら基本的に一人で作業する場合は,入力2系統/出力2系統(2in/2out)のオーディオインタフェイスが使いやすいと思います.より多くの入出力チャネルに対応したオーディオインタフェイスは大きく高価になります.

製品名 入出力数 MIDI 価格* メモ
Steinberg UR22 2in / 2out 15,000  
Roland Duo-Capture EX 2in / 2out 17,000  
PRESONUS AudioBox 22VSL 2in / 2out 21,000  
Roland Octa-Capture 10in / 10out 57,000 8系統マイク入力

僕が使っているEdirol (Roland) UA-101はすでに生産終了しています.UA101の後継機はOcta-Captureですが,8系統マイク入力など,小規模のライブ収録にはとても便利そうです.

以前はApogee DuetというFireWire接続のオーディオインタフェイスも使っていました.音質には定評がありましたが,ノートパソコンにFireWire端子がなくなって使わなくなってしまいました.今買うのであればUSB接続の機種がいいと思います.

 

MIDI入力装置

コンピュータに音楽を入力する方法は大きく2つあります.一つはマイクやエレキギターなどの信号をオーディオインタフェイスを通して波形データとしてコンピュータに入力する方法で,録音と言うべきものです.入力されたデータはDAWソフト内でオーディオトラックとして扱われます.

もう一つがMIDI入力です.基本的には個々の音の高さと長さの情報だけを記録するもので,楽譜に表示できる音楽の情報にほぼ対応します.

僕が実際に使っているMIDI入力装置は,マウスだけです.

メロディーや和音の入力にMIDIキーボードを使う人も多いと思います.キーボードのMIDI端子出力をパソコンに接続するためにMIDIインタフェイスが必要ですが,オーディオインタフェイスにおまけでついていることが多いので,MIDI入力を行う人はオーディオインタフェイスを買う時に確認しておくといいと思います.

 

スピーカーとヘッドホン

音楽を聴くには

の2種類ありますが,音楽制作のためにはスピーカーは絶対に必要です.音楽制作のスタイルによりますが,ヘッドホンもあったほうがいいと思います.

モニタスピーカー

スピーカーには,音楽鑑賞用として売られている民生用製品と音楽制作用に作られたモニタスピーカーの2種類があります.音楽制作に必要なのは後者です.

音楽鑑賞用のスピーカーは,低音のビートを強調したり,高音のツヤを強調したり,聴く音楽のジャンルに合わせてなるべく音楽が心地よく聴けるように作られています.いろんなアンプと組み合わせてアンプとの相性による音の違いを楽しんだりするので,アンプが内蔵されていないパッシブスピーカーがほとんどです.

一方,モニタスピーカーは,不快な音は不快になるように音を忠実に再生する必要がありますから,音楽鑑賞用のスピーカーとは目的や作りが違い,代用することはできません.アンプと合わせたときに出力が入力信号に最も忠実になるように設計されるため,モニタスピーカーは普通アンプ内蔵のアクティブスピーカーです.

防音壁に吸音材を張った広いスタジオで20Hzの低音まで再現できる大型モニタスピーカーを使用するのが理想ですが,一般の家庭ではそうもいきません.

僕が使っているのはTannoy Reveal 5Aというモニタスピーカーです.(ページ上部写真)今は生産中止で,後継機種はReveal 501aのようです.しっかりしたモニタスピーカーだと思いますが,それほどポピュラーではないかもしれません.モニタスピーカーの定番はYamaha MSP5でしょうか.ただし,使ったことがないのでコメントはできません.

Tannoy Reveal 5AにしてもYamaha MSP5にしても,大きさの関係で重低音は出ません.ミックスの最終段階で,低音のバランスだけは大きなスピーカーで別にチェックする必要があります.

僕は写真のように,机にコンクリートブロックと振動吸収材をはさんでReveal 5Aを乗せて使っています.スピーカーの中心間が約80cm,耳からスピーカーまでの距離も約80cmという感じです.

モニタについて重要なのは,スピーカーから直接耳に届く音は聞こえるが,部屋の壁などに反射した音がなるべく聞こえないようにすることです.80cmという比較的小さな距離でモニタするのもそのためです.耳がスピーカーに近いほうが,壁からの反射音が相対的に小さくなります.

机での反射音はモニタの邪魔になりますから,本気でミックスする時には机にフェルト地の布を敷いて反射を防ぎます.

ヘッドホン

経験から言って,音量バランス調整だけは絶対にスピーカーでやらないとダメだけれど,それ以外の操作はスピーカーでもヘッドホンでもいいように思います.部屋が静かでない場合などは,むしろヘッドホンのほうが小さな音まで聴き分けられて有利です.

ヘッドホンの定番はSony MDR-CD900STです.これがスタジオ定番になっていて,みんなこれを基準にしてるんだから仕方ない.少し高価ですけど,とくに機種にこだわりがないのであればCD900STをお勧めしておきます.10年近く使って,さすがにイヤーパッドは2回ほど交換しましたが,それ以外は問題なし.さすが業務用です.歌録りのときとか,これを使ってるとシンガーさんが安心してくれますよ,たぶん.

 


(*)価格は執筆時点のおおよその流通価格です.