音響技術3. 録音
オーディオトラック
オーディオトラックは録音された音声データを表しています.音の波形データ自体はオーディオファイルとして別に保存されていて,それがどこにあるかがオーディオトラックに記録されています.
オーディオファイル
音声信号の強さを毎秒数万回の頻度で測定し,その値を順に書き込む,リニアPCMと呼ばれる記録方式が基本です.具体的にはWAVE形式やAIFF形式のオーディオファイルがそれです.音声圧縮技術を用いてファイル容量を小さくしたmp3やAACもよく用いられますが,DAWソフトの内部ではリニアPCMに変換して処理されます.
オーディオファイルのパラメータで,重要なのは次の2つです.
サンプルレート
1秒間に何回信号の強さを記録するかを表すパラメータです.CDのサンプルレートは44.1kHzで,音楽ではこれが標準となっています.DVDのサウンドトラックのサンプルレートは48kHzですので,ムービー用のサウンドトラックを作る場合はそちらに合わせます.もっと高音質が必要な場合は,96kHz,192kHzが使われることもありますが,オーディオファイルの容量が大きくなり,コンピュータの負荷も大きくなるので,普通は44.1kHzでよいと思います.
ビットレート
音声信号の強さを何段階で計るかを表すパラメータです.16ビットだと2の16乗でプラスマイナス約32000段階.24ビットだとさらにその256倍です.CDのビットレートは16ビットで,最終的には16ビットで十分なのですが,エフェクトを使ったりトラックをミックスしたりするたびに少しずつ精度が失われるので,DAWソフトの内部では音声信号を24ビットで扱っておいて,最終のマスタリングを16ビットにするのが定石となっています.
つまり,特に理由がなければ,44.1kHz/24ビット にしとけって話です.
録音
オーディオトラックに音声を録音する方法としては,次の3つがあります.
- キーボードなど電子楽器の音声出力をライン入力する
- マイクを使って音を収録する
- エレキギターやエレキベースから電気信号を直接入力する
ライン
業務用音響機器どうしで電気信号をやりとりする場合,入出力インピーダンスを600Ω,電圧レベルを+4dBu(=約1.23V AC)に合わせる決まりになっており,これをラインと呼んでいます.接続用コネクタとしては,XLRコネクタ(キャノンコネクタ・上)や1/4インチ・フォーンジャック(下)が使われます.
一般消費者向け機器の場合,RCAピンコネクタ(上)や1/8インチ・ステレオフォーンジャック(ステレオミニジャック・下)が用いられ,電圧は-10dBV(=約0.45V)ですが,これもラインと呼んでいます.
このdBuとかdBVとかいう単位は,音響技術の闇の部分で,理解できなくても問題ないです.業務用ライン=+4dBu,民生用ライン=-10dBVとだけ覚えておけば十分です.
たとえば,キーボードの音声信号端子をオーディオインタフェイスに入力する場合,(業務用)ラインで信号の入出力を行うことになります.
マイク入力
マイクの出力は,ラインに比べてはるかに電圧が低いですから,プリアンプでラインレベルまで増幅する必要があります.が,たいていのオーディオインタフェイスには,マイク用のプリアンプが内蔵されていて,マイクケーブルを直接つないで信号を入力できるようになっています.
プリアンプはアナログの電気信号増幅回路ですから,その性能によってマイクの音が変わります.そこにこだわる人は,真空管を使ったマイク用プリアンプを使ったりします.僕は,こだわりません.(笑)
エレキギター・エレキベース
エレキギターやエレキベースのピックアップの出力は,電圧が低い上に出力インピーダンスが大変高いのでさらに特別の取扱が必要になります.ピックアップ出力信号を,インピーダンスマッチングをとりながらラインレベルまで増幅する装置はDIボックスと呼ばれます.
この機能も内蔵しているオーディオインタフェイスが多く,その場合,入力端子にHi-Z切替スイッチがついています.エレキギターやエレキベースを直接つないだときは,Hi-Zをオンにします.
マイクの種類
マイクは大きくダイナミック型とコンデンサ型に分けられます.コンデンサ型の利点は音がいいことだけです.あとは,電源が必要だったり,振動に弱かったり,高価だったり,いいことは何もないです.でも,音がいいのは棄て難い魅力なわけで...
ダイナミック型マイク
ムービングコイル型といって,永久磁石のまわりにコイルが吊るしてあって,音声で膜が振動するとコイルが動いて電気信号が発声するしくみのものが一般的です.具体例としては:
Shure SM58
ステージ用ヴォーカルマイクの定番中の定番.価格も1万円強ぐらい.1本持っているといろんなところで活躍します.
コンデンサ型マイク
電極と膜が電解質をはさんでコンデンサになっており,膜が振動するとコンデンサの容量が変化するのを電気的に取り出すしくみ.電圧供給が必要で,通常マイクケーブルを通じてファントム電源と呼ばれる48Vの電圧を供給して使います.
ノイマン U87
スタジオレコーディング用ヴォーカルマイクの定番.めっちゃ高いです.使ったことないけど.あまりに有名なので名前だけは覚えておこう.(笑)
サンケン CU-41
サンケンは日本のメーカーです.こちらも世界的に評価高いです.すごくいい音で録音できます.
RODE NT2000
RODEは比較的安価かつ性能はそこそこいいコンデンサマイクのメーカーだと思います.NT2000は,特に有名なわけではないですが,僕が持っているコンデンサマイク.指向性が切り替えられるので,双指向性にしてCU-41と合わせてMSステレオ録音に使ったりします.
M-Audio Pulsar
僕が最初に買ったコンデンサマイクというだけで,お勧めでもなんでもありません.最初はどんなマイクがいいのか全くわからなかったので,適当に1万円ぐらいで買ったように思います.使ってみると,確かに小さい音まで録れるのですが,ノイズを拾いまくりで非常に使いづらい.それで,コンデンサマイクというのはそういうものなんだと思っていたのですが,もっと高いマイクを使ってみると全然そんなことありませんでした.僕の勝手な結論としては,いい音を求めてコンデンサマイクを使うのであれば,ちゃんとお金を出してある程度しっかりした製品を買わないとダメだということです.
CU-41 vs SM58
コンデンサ型のほうが音がいいって,じゃあ,どのぐらいいいのか気になりますよね.実験してみました. サンケンCU-41対Shure SM58です.値段の違いが20倍ぐらい.(笑)
マイクを並べて設置して,ケーブルでオーディオインタフェイスUA-101の2つのマイク入力端子につなぎます.入力レベルを合わせておいて,同時録音です.
CU-41 | Jack1-CU-41.mp3 | Jack1-CU-41.wav |
---|---|---|
SM58 | Jack1-SM58.mp3 | Jack1-SM58.wav |
違いは歴然.ノイズが全然違います.でもノイズだけではなくて,声のクリアさも全然違いますね.
音声部分のスペクトルを比較してみます.紫がCU-41,緑がSM58です.SM58はCU-41に比べ5kHzあたりが少し強調されていことがわかります.
ノイズ部分を比較するために,双方とも40dBずつブーストしてスペクトルを比較してみました.耳で聴いた通りの差です.高音域でSM58はCU-41に比べて10dBぐらい余計にノイズが乗っています.
CU-41 vs NT2000
今度はコンデンサマイクどうしの比較です.
上と同様に同時録音で比較です.
CU-41 | Jack2-CU-41.mp3 | Jack2-CU-41.wav |
---|---|---|
NT2000 | Jack2-NT2000.mp3 | Jack2-NT2000.wav |
微妙な差ですね.
スペクトル比較では音声部分はほとんど差がありません.(紫がCU-41,緑がNT2000.)
無音部分を40dBずつブーストして比較すると,むしろNT2000のほうがノイズが少ないぐらいです.
音声信号を何度も聴き比べると,CU-41のほうが濁りがなくクリアな気がする.でもこれって,高いCU-41のほうが音がいいはずだっていうプラシーボ効果かも.そういうレベルの差ですね.そもそもオーディオインタフェイスがUA-101ではCU-41の性能をちゃんと引き出せていない可能性も大です.
実物のマイクを手で持った感じは,明らかにCU-41が高級品で,NT2000はどことなく安っぽい質感です.値段の差は,音質よりは,耐久性とか,何年も経った後の音の劣化具合とか,そういう部分にあるのかもしれません.