Masaaki Wada (watercolor portrait by Jesus Guajardo)
作曲家 和田昌昭
Masaaki Wada
Composer
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  1. 機材
  2. 打込み
  3. 録音
  4. エフェクト
  5. 音源作成

音響技術5. 音源作成

音源作成に,こうするべきという決まりはありません.実際,僕が音源を作るときも曲によって手順が違いますし,あまり一般論は述べられません.ここでは一つ実例を見てもらい,参考にしていただこうと思います.

コンコンチキ

「コンコンチキ」は,2012年12月15日に作曲したものですが,そのとき同時に打込みで次のようなデモ音源を作成してありました.

Konkonchiki1212151154.mp3

当時はLogic Pro 9でしたが,アレンジ画面(クリックで拡大)を見てのように,すべて打込みで,ドラムはループ素材を使っています.これをもとに,ヴォーカル入りのCDマスター音源に仕上げようというわけです.

テンポ

この曲は,僕の曲としては珍しく,最初から最後までテンポが♩=107で一定なので特にすることはありません.

もっと多いパターンとしては,最後の数小節前からリタルダントしていって最後にジャ〜ン,という終わり方です.リタルダントのニュアンスを数値で入力するのはとても難しいので,僕は実際に机を叩いたりしてテンポを刻んだものを録音しておき,それに小節線が合うように小節ごとのテンポを決めるようにしています.最後のほうは小節でなく,四分音符ごとにテンポを変えるような感じになります.例→Circus-tempo.mp4

全体構成

コンコンチキは,ドラム,ベース,オルガンは打込みにして,ヴォーカル,コーラス,リードギター,サイドギターを録音することにしました.ヴォーカルとコーラスの録音は当然として,この曲のチャームポイントはサイドギターのカッティングとリードギターのソロなので,そこはこだわってみました.最終的なアレンジ画面は次のようになりました.

サイドギター

録音の順序に特に決まりはありませんが,サイドギターから始めました.サイドギターの「ジャカジャカジャカジャカ」の刻みが歌詞にマッチするように存在感のあるギザギザの尖った感じにしたいですが,ヴォーカルの邪魔をしてもいけないので,さじ加減が難しいところです.

実際の録音は,12小節ごとに分けて,それを5〜6テイクずつ録っては「いいとこ取り」をしています.

エレキギターというのは,ギターとアンプとその間に挿入するエフェクトなどを合わせたものが一つの楽器,というふうに考えるべきものです.ですから,録音スタジオでエレキギターを収録するときは,ギターアンプのスピーカーの前にマイクを立てて,マイクで録音します.自宅にギターアンプと大きな音を鳴らせる部屋があるなら,その通りやって録音してもいいですが,そんな環境の人は多くないでしょう.

そこでアンプシミュレータが登場します.ギターのシールドケーブルを直接オーディオインタフェイスに入力しておき,対応するオーディオトラックにアンプシミュレータのプラグインを挿入すると,ギターアンプでスピーカーから音を鳴らし,それをマイクで収録したかのような効果が得られるようになっています.アンプやスピーカーや収録に用いるマイクの種類が選べるようになっており,アンプの各種つまみはもちろん,マイクを立てる位置まで調整できるようになっているのですが,パラメータが多すぎて逆に調整が難しいです.アンプシミュレータの前にエフェクトのプラグインを挿入すると,ギターの出力にエフェクトをかけてからアンプに入力するかのような効果を得ることもできます.

2つのトラックを交互に用いて録音していますので,それらのトラックの出力をBus 2を通じて補助トラックに集めて,そこにプラグインを挿入しています.コンプレッサは音量のムラを軽減する目的で入れています.Ratioは3.Ampがアンプシミュレータです.

GAINつまみを上げると音が歪みます.音質はBASS,MIDS, TREBLEとPRESENCEつまみで調節するのですが,つまみが0.5ぐらい変わるだけで耳に痛い音になってしまったり,迫力のない音になったりします.これは,実物のギターアンプについても言えることですが,ギターの音にこだわるなら,とことん納得いくまでギターアンプのつまみをいじり倒すべきです.

最後にEQで150Hz以下をカットして,2500Hzあたりを–3dBぐらいカットしてサイドギターの音作りは終了です.Bus1は部屋全体の残響のリバーブです.

Konkonchiki-side-guitar.mp3

リードギター

次にリードギターを録音しました.

どんだけテイク録んねん!(汗

先ほどと同様,まずコンプレッサが入っていますが,Ratioは1.5と小さめ.なくてもいいかもしれません.

違うのは,その後にリバーブが入っていることです.エレキギターの弦の振動は案外早く減衰します.白玉の長いフレーズをゆったり歌うためには,音が減衰してしまわないように引き伸ばしてやる必要があり,そのためにリバーブ入れています.使っているのは1.7秒のPlateリバーブです.

リードギター用のAmp設定はこのようになっています.

最後にEQで少し調整してリードギター終了.

Konkonchiki-lead-guitar.mp3

ヴォーカル

ヴォーカルが先かコーラスが先か,どちらがいいのかよくわかりませんが,今回はヴォーカルを先に録音しました.まあ,コーラスパートは先に打込みで入れてあるので,コーラスのイメージはなんとなくつかめます.

ヴォーカルの録音では,テイクをあまりたくさん録りません.というのは,声のイキがいいのは,せいぜい1時間ぐらいなので,その間に録音を済ませてしまわないといけないからです.3テイクか多くても4テイクぐらいです.

プラグインは,EQで80Hz以下をカットしたことと,Ratio 1.5の弱いコンプレッサをかけたぐらいです.ただし,フェーダーのオートメーションを使って音量調節を行います.

Konkonchiki-vocal.mp3

「おおきな救いだよね」の「す」のところが,ギターに埋もれるので特にブーストしました.

いつもヴォーカルの音量調節がこのようにシンプルというわけではありません.

これは,以前「サーカス」のヴォーカルの音量調整をしたときのものですが,いいとこ取りも音量調整もはるかに細かくやっています.

上の録音を注意深く聴くと,「死ななきゃ」の「き」のところとか,唾によるクチャという音が入っています.ロックだと,ドラムやギターにかき消されてほとんど気にならないですが,ピアノ伴奏のみだとそのクチャが致命的なんですね.唾なんて,お腹が空いても出るし食べた直後も出るし,けっこう厄介です.

コーラス

コンプレッサを少し強めにかけて音量のムラを少なくしていることを除けば,ほとんどヴォーカルと同じです.

Konkonchiki-chorus.mp3

メインヴォーカルと合わせるとこんな感じになります.

Konkonchiki-vocal-chorus.mp3

ドラム

ドラムは元々ループ素材だったものですが,まず一つのリージョンに結合してから,種類ごとに別々のトラックに分けます.28のループトラックを,シンバル,タム,ハイハット,スネア,キックの5つのトラックに分けています.

その後,各トラックに別々にエフェクトを設定して音作りをしていきます.

キック

まずCompを入れてパンチの効いた音にします.Ratio 2でAttack 10ms,Release 50msぐらいに設定して,音の立ち上がりを強調します.

EQは,60Hzを少し上げて低音の迫力をつけます.これは大きなスピーカーで確認が必要です.300Hzあたりを削ると音のしまりが出ます.8kHzのブーストはお好みで.エフェクトなし,Compのみ,Comp+EQの音を聴き比べてみてください.いずれも部屋の残響は入っています.

スネア

Compは好みで.今回はRatio 4,Attack 0,Release 400msでかけてみました.

EQは,まず100Hz以下カット.スナッピの音をどう聴かせるかだけど,2kHzを3dB,10kHzを+12dBと思い切って上げてみました.バキバキの曲なのでこれでいいのではないかと.

スネアにリバーブをかけると,それらしい音になります.ただし,今回はリバーブは薄くして隠し味という感じ.

ハイハット

EQで100Hz以下をカット,10kHz以上をシェルビングで+6dBブーストしたのみ.

タム

EQで700Hzを中心に-3dBカットして落ち着いた音に.4kHz以上をシェルビングで3dB持ち上げてみました.本当はタムごとに分けて音作りするべきなんでしょうが,面倒なんで妥協です.

シンバル

EQで400Hz以下カット,10kHzあたりを6dBブーストのみ.

さて,パーツに分けてこんなに頑張って音作りして,いったいどれぐらい音がよくなったのか気になるところだけど,このぐらい.

ベース

Motown Bassというプリセットのベースをそのまま使用しました.これでいいと思えるのであれば,そのまま使えばいいと思います.

オルガン

これも,Percussive Organというプリセットをそのまま使っています.いい感じの音だと思います.ただし,初期設定は音が左右に広がり過ぎなので,Direction Mixerで0.6倍にしています.

Panと音量の調整

これは,ヘッドホンではなくスピーカーで行うのが断然やりやすいです.

僕のやり方は簡単.個別のトラックをスピーカーで再生して目を閉じて聴いたときに,何メートルぐらい離れた場所から音が聞こえて来るかをチェックします.ヴォーカルが前過ぎず後ろ過ぎずちょうどよい距離から聞こえているか,というように距離で確かめるわけです.

音の大きさについては,我々の耳は騙されやすくできていていますが,音源の距離はかなり精度の高い判断ができるんですね.最終的には0.5dBぐらいの精度で各楽器の音量調整をすることができます.これが,ヘッドホンではなくスピーカーが必要な理由です.