Masaaki Wada (watercolor portrait by Jesus Guajardo)
作曲家 和田昌昭
Masaaki Wada
Composer
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DTMのための音楽の基礎

大阪大学音楽制作サークル ラムレーズンの2016.6.24定例会資料です.

DTMに必要な知識を大きく,(1)音楽一般,(2)ジャンル固有,(3)音響技術(録音・ミックス等)に分けたとき,(1)の基本事項を1ページにまとめました. 音楽の基礎に2014年の音楽講座の資料もありますので,興味あるかたはどうぞ.(3)については音響技術の記事が役に立つかもしれません.

音の高さ

音程が1オクターブ上がるごとに周波数は2倍.

半音上がるごとに周波数は2の12乗根(≒1.06)倍.(平均律)

半音をさらに100等分してセントで表す(周波数が2の1200乗根倍).100セントで半音.別々に聴いて違いがわかる限界は5セント程度.

A=440Hz調律の場合,

中央のド=261.6Hz=Midi60=C4(国際標準, Roland, Korg)=C3(Yamaha)

C3などの記号はメーカーによって表示が違うので注意が必要.たとえば,Logic Proの初期設定はYamaha表記になっている.

倍音

ピアノで中央のドを弾くと,基音=ルートの周波数261.6Hzと同時にその整数倍の周波数の音が出る.

単独で弾いても倍音が同時に鳴っている,つまり,和音が鳴っている.

  周波数 音程的に近い平均律のキー  
ルート 261.6Hz =Midi60
2倍音 523.2Hz =Midi72
3倍音 785Hz ≒Midi79(より2セント高い)
4倍音 1046.4Hz =Midi84
5倍音 1.3kHz ≒Midi88(より14セント低い)
6倍音 1.57kHz ≒Midi91(より2セント高い)
7倍音 1.83kHz ≒Midi94(より31セント低い) ラ#
8倍音 2.09kHz =Midi96
9倍音以上もたくさん出る

それぞれの倍音がどのぐらいの強さで含まれるかは楽器や音程による.たとえば,次に示すように,クラリネット属(閉管楽器)では偶数倍音はほとんど含まれない.

ルートが弱く,2倍音や3倍音が強く出ている状態は,ファルセット(裏声),ハーモニクス(ギター),クラリオン(クラリネット)などと呼ばれる.

5倍音のミと平均律のミは14セントも違う.たとえばドソの伴奏でメロディーがミのとき,平均律のミより5倍音のミのほうが美しく響く.ヴォーカル,弦楽器,管楽器などのトラックでピッチ補正を行うとき,きっちり平均律に合わせてしまうと不自然なので注意が必要.

音の大きさ

音の大きさは電力に比例する.

音の大きさをデシベル(dB)で表す.信号電力と基準電力の比の常用対数(底が10の対数)を単位ベルで表す.しかし,それだと小数点つきの数字だらけで使いづらいので,数値を10倍して,単位をデシベルにする習慣になっている.(水0.2Lの代わりに2dLというような感じ)

10 log(信号電力/基準電力) dB

デシベルという単位は電圧にも電力にも用いられるが,電力比は電圧比の2乗なので,音のデシベル表示は電圧のデシベル表示の2倍になる.

10 log(信号電力/基準電力)=20 log(信号電圧/基準電圧) dB

基準との電力比 電力 (dB)
基準電力 0dB
1/2倍

10 log(1/2)≒–3dB

1/4倍 10 log(1/4)≒–6dB
1/10倍 10 log(1/10)=–10dB
1/100倍 10 log(1/100)=–20dB

3dB違えば音の大きさが2倍違う.6dBで4倍,10dBで10倍,20dBで100倍.(基準は関係ない.)

基準となる電圧や電力は使用目的に応じて様々なものがあるが,覚える必要はない.

DAWに関しては,音がクリップする限界が0dB.マスタートラックの最終段のPeak(最大値)は絶対に0dBを超えてはいけない.サンプリング誤差を考慮すると–0.2dB以下程度に押さえておくのが安全.

ちなみに,Peakが0dBを超えないようにしながら,聴感上の音圧をどれだけ上げられるかというのが悪名高き音圧競争だが,YouTubeがラウドネスレベル(RMSを聴感に合わせて補正した値)を–13dBに,またiTunesがラウドネスレベル–16.5dB程度に抑えるようになったことから音圧競争は収束に向かっている.

ラウドネス

物理的に同じ音圧の音でも,周波数によって聴感上の大きさは異なる.同じ大きさに感じる音圧を周波数ごとにプロットしたものが次の等ラウドネス曲線.(ウィキメディア・コモンズより引用)

3kHz付近は,たとえば赤ん坊の鳴き声の周波数で,耳の感度が特に高い.ミックスをスペクトルアナライザーで見てフラットに仕上げると,高音域が妙に耳障りということになるので注意が必要.

ベロシティー

Midiのベロシティーも音の強さを表しているが絶対的基準はなく,たとえばvelocity=64がどの程度の強さの音なのかはまちまち.

音階と和音

全音階と旋律的短音階以外の変態的音階は知らなくても問題ない.

全音階(ダイアトニックスケール)

いわゆるドレミファソラシドの音階のことで,ミ・ファ間とシ・ド間が半音,そのほかが全音となっている.2カ所の半音によって,全音2つ(ド・レ・ミ)と全音3つ(ファ・ソ・ラ・シ)に分かれる音階と言ってもよい.

伴奏は3度積み和音を用いる.基本は3度積み三和音(トライアド).

  和音 音程 ハ長調コード
I ドミソ

4–3

C
II レファラ 3–4 Dm
III ミソシ 3–4 Em
IV ファラド 4–3 F
V ソシレ 4–3 G
ソシレファ 4–3–3 G7
VI ラドミ 3–4 Am

Vだけは四和音もよく用いられる.VII(シレファ)はV7(ソシレファ)で代用するので使わない.

従って,音程的には4–3の長三和音(メジャー),3–4の短三和音(マイナー)と4–3–3の属七和音(ドミナントセブンス)の3種類のみ.

曲を聴くとき,フレーズごとに伴奏がどういう和音か意識するようにしよう.慣れてきたら,4536(=IV-V-III-VI)エモい,などとTwitterでつぶやこう!

ジャズや一部のポップスでは3度積み四和音(テトラド)もよく用いられる.素朴で力強い三和音と比べて,良く言えばオシャレ,悪く言えばチャラい.

  和音 音程 ハ長調コード
I ドミソシ

4–3–4

CM7=C△7=Cmaj7
II レファラド 3–4–3 Dm7
III ミソシレ 3–4–3 Em7
IV ファラドミ 4–3–4 FM7=F△7=Fmaj7
V ソシレファ 4–3–3 G7
VI ラドミソ

3–4–3

Am7
VII シレファラ 3–3–4 Bm7-5=Bm7♭5

音程的には4–3–4の長七和音(メジャーセブンス),3–4–3の短七和音(マイナーセブンス),4–3–3の属七和音(ドミナントセブンス),3–3–4の導七和音(ハーフディミニッシュト)が出てくる.

旋律的短音階

短調の音階には,自然短音階,和声的短音階,旋律的短音階の3種類あるが,自然短音階は全音階で始まりの音がドからラに変わっただけで,和音については全音階と同じ.和声的短音階は最近の音楽ではほとんど使われない.

旋律的短音階は,自然的短音階においてファとソを半音上げたもの

ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ#・ソ#・ラ

とも思えるし,全音階においてミが半音下がったものとも思える.

ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ・シ・ド

長調からの転調で,平行調への転調の場合は前者,同主調への転調の場合は後者のように考えるわけである.

二つの半音によって全音一つ(ラ・シ)と全音4つ(ド・レ・ミ・ファ#)に分かれる音階と言ってもよい.

どの音から数え始めるかによってリディアン♭7とかオルタードとかいろんな名前がついているが,そんなものは覚えなくても問題ない.

1曲を通して最初から最後まで旋律的短音階ということはあまりなくて,全音階の曲の一部が旋律的短音階になっているのがよくあるパターン.

例として有名なシャンソン「枯葉」の冒頭部分(mp3)を見てみよう.

キーはGmでコードは左からGm7,Cm7,F7,BbM7,EbM7,Am7-5,D7,GmM7.複雑なコードが並んでいて難しく感じるかもしれないが,和音の前にまず使われいてる音階を考えるとわかりやすい.(mp3

基本はGm(ト短調)の全音階でどの音からスタートするかだけを考えればよい.が,最後の2小節はそれでは違和感があって,上のように旋律的短音階に修正すればしっくりくる.このあたりの感覚は人によって違っていてかまわない.自分の気分にぴったりの音階を探そう.

音階が決まったら,その1,3,5番目,(ジャズの場合はプラス7番目)を取り出せば伴奏用の和音が出来上がる.ウォーキングベースとドラムスを追加するとこんな感じ

コード名

ポップスやジャズでよく用いられるコード名は,1番目の音の音名を書いたあとに和音の音程に従って次のような記号を書く.

音程 記号 読み方
4–3 なし  
3–4 m マイナー
3–3 dim ディミニッシュト
4–4 aug オーグメンテド
4–3–3 7 セブンス
4–3–4 M7, △7, maj7 メジャーセブンス
3–4–3 m7 マイナーセブンス
3–3–4 m7-5, m7♭5 ハーフディミニッシュト
3–4–4 mM7 マイナーメジャーセブンス

音階と和音については,とりあえずこれくらいで十分.

音楽理論としては和声学と対位法というのがあって,クラシック音楽では必須だけれど,ポップスなら知らなくても問題ない.

緊張と解決

西洋音楽(=ほとんどすべての音楽)において,緊張と解決によるダイナミズムが様々な形で用いられる.主和音や一定のリズムから外れることによって緊張がおきて,主和音と最初のリズムに戻ることで解決するのがよく見られるパターン.

フレーズの終わりに用いられるV7-Iという和音進行において,V7はシとファの間の半音6個分の音程がトライトーンと呼ばれる不安定な響きで,これが緊張をもたらす.それが主和音Iによって解決して,しっかりと終わった気持ちになる.

8小節ごとの繰り返しにおいて,最初の7小節は安定したパターンを叩いていたドラムが8小節目でフィルイン(おかず)を入れて緊張を作り出す.次の小節の頭でシンバル1発と共にまた最初の安定したパターンに戻って解決する.

ジャズの4ビートでウォーキングベースの基本は,1拍目=ルート,2拍目=3度または7度,3拍目=5度,4拍目=次の小節のルートの半音上や半音下など.4拍目は小節の和音から外れていることが多く,緊張をもたらす.それが次の小節の頭のルート音で解決する.

緊張を作り出す部分はなんらかの意味で外れていればいいわけで,非常に自由度が高いので作曲家にとっても演奏家にとっても腕の見せ所になる.

終わり

理論はこのぐらいにして,作りたい音楽をどんどん作ろう.御託ばかり並べて曲が作れないのはダメだ.