2017.7.7 和田昌昭
「伴奏に使う和音の決め方」を最速で理解することを目標に解説してみよう.
オクターブ違いは同じ音と考えると,全部で12種類の音がある.
英語 | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C |
D♭ | E♭ | G♭ | A♭ | B♭ | |||||||||
和名 | ハ | 嬰ハ | ニ | 嬰ニ | ホ | ヘ | 嬰ヘ | ト | 嬰ト | イ | 嬰イ | ロ | ハ |
変ニ | 変ホ | 変ト | 変イ | 変ロ |
黒鍵に対応する音は,C#(Cの半音上)=D♭(Dの半音下)というように同じ音に2つの名前がついていたりするが,今回は#で統一する.
クラシック音楽ではドイツ語の音名を使い,B♭のことをB(ベー),BのことをH(ハー)とよぶ.まぎらわしいので,はっきり言ってやめてほしい.
2つの音の差を音程とよび,個別に名前がついているのだけれど,ここでは「半音がいくつ分か」を数字で表すことにする.
半音 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
名前 | 短2度 | 長2度 | 短3度 | 長3度 | 完全4度 | 増4度 | 完全5度 | 短6度 | 長6度 | 短7度 | 長7度 | 完全8度 |
オクターブ違いは同じと考えた12の音のうち,1曲中で使うのは通常7つ.それら7つの音を音階(スケール)とよぶ.
ポピュラー音楽で使われる音階は全音階(長調の音階)と短調の音階の2種類.覚える必要があるのはこの2つだけ.
ブルースのように理論だけかじっても仕方ないものはここでは扱わない.それ以外の「こんな変わった音階使ってる俺スゲェ!」的なリスナーのことはどうでもいい理論オタク向け変態音階は無視しよう.
普通のドレミファソラシドの音階を全音階(ダイアトニック・スケール)とよぶ.音程2212221.なんと言ってもこれが一番重要.
ピアノでCから順番に白鍵だけ弾くとCメジャー(ハ長調)の音階.
Cメジャー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
半音上げてC#から音程2212221だとC#メジャー(嬰ハ長調)の音階.
C#メジャー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
さらに半音上げてDから音程2212221だとDメジャー(ニ長調)の音階.
Dメジャー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
このように,全部で12の全音階がある.
同じ全音階でもレミファソラシドレとするとドリアンとか,ファソラシドレミファだとリディアンとか,細かいことは今は気にしない.
曲に伴奏をつけるとき,普通は,音階に属する音を一つ飛ばしで3つ重ねた和音(3度積み3和音)を使う.
このとき,和音を構成する音を下から順にルート,3度,5度とよぶ.
たとえばCメジャーの曲の場合,3度積み3和音は次の7つ.→C-Major.mp3
番号 | 記号 | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F | F# | G |
I | C | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
II | Dm | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
III | Em | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
IV | F | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
V | G | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
VI | Am | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
V7 | G7 | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||
VII | Bm-5 | ● | ● | ● |
ただし,VIIは使われず代わりに4和音のV7が使われる.従って,長調で使われる和音はI, II, III, IV, V, VI, V7の7つ.たとえばCメジャーの曲で伴奏に使う和音はC, Dm, Em, F, G, Am, G7の7つ.
調にかかわらず音階の第1音から始まる3度積み3和音ををI,第2音から始まる3度積み3和音をIIというように和音番号は相対表示.
一方和音記号のほうはルートの音名に音程を表すmや7などの記号が付加された絶対表示.調がわからなくても弾けるので演奏にはこちらが便利.
I, IV, Vは音程が43のメジャーコード(長3和音),II, III, VIは音程が34のマイナーコード(短3和音)になっている.つまり,メジャーコード,マイナーコードとドミナントセブンスコード(それぞれ12種類)を知っていれば全音階の曲は調にかかわらず全部伴奏できる.
オクターブ違いの音は同じとみなす扱いだから,たとえばCメジャーコードはCEGの順とは限らなくて,Cをオクターブ上げてEGCとしてもよい(転回という).その場合音程は35.さらに転回すればGCEで音程は54.従って,メジャーコードは音程が43というよりは435の円順列と考えておくほうが合理的.
番号 | 記号 | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F | F# | G |
I | C | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
I | C | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
I | C | ● | ● | ● |
同様にマイナーコードは音程345の円順列.
番号 | 記号 | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F | F# | G |
II | Dm | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
II | Dm | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
II | Dm | ● | ● | ● |
3和音で音程が5を含むものがあったら,標準的なメジャーコードなりマイナーコードを転回したものとして理解しよう.→Rotation.mp3
たとえばCコード(C,E,G)の直後にFコード(F,A,C)だと音域が大きく変わるが,転回してCコード(C,E,G)→Fコード(C,F,A)とすればつながりが滑らかになる.
どの場面でどの和音を使うかは決まっているわけではない.指定された音階(調)で使える和音は7つのどれかなので,実際に弾いてみて気分に合ったものを選べばよい.数小節同じ和音でもよいし,1小節内で何度も和音が変わるのもあり.作曲者のセンスが出るところ.
自分の好きな曲でどのような和音が使われているかを調べてみるといい勉強になる.
和音の移り変わりを和音進行(コード進行)という.よく用いられるパターンがいくつかある.
IV→V7→Iはフレーズの最後で頻繁に用いられる.後者のように転回してルート音のベースを別途加えたりする.
IV-V7-I.mp3 |
J-POPのサビではお決まりのIV→V→III→VIがよく使われたりする.2番目はVIを転回してルート音のベースを加えたもの.実際の使われ方の例を2つ.
IV-V-III-VI.mp3 |
音楽を聴くときに和音進行に注意しながら聴くようにすると,自分で作曲するときに役に立つ.
ジャズでは3度積み3和音の代わりに3度積み4和音を用いる.華やかでオシャレな雰囲気になる.そういう響きがほしい場合はポップスでも使う.チャラい響きとも言えるのでロックなど素朴さや力強さを求める音楽ではあまり使われない.
基本となる3和音に7thを加えたという意味でセブンスコードと呼ばれることもある.
たとえばCメジャー音階では次のようになる.C-Major-Tetrad.mp3
番号 | 記号 | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A |
I7 | CM7 | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
II7 | Dm7 | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
III7 | Em7 | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
IV7 | FM7 | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
V7 | G7 | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
VI7 | Am7 | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
VII7 | Bm7-5 | ● | ● | ● | ● |
I7とIV7は音程434(円順列的に4341)でメジャーセブンスコード.記号はM7, maj7.手書きでは△7と書くことも.
II7, III7, IV7は音程343(円順列で3432)でマイナーセブンスコード.記号はm7.
V7は音程433(円順列4332)でドミナントセブンスコード.記号は7.
VII7は音程334(円順列3342)でハーフディミニッシュトコード.ジャズではこれもよく使う.記号はm7-5(マイナーセブンス・フラッテドフィフスと読む).
3和音のコード進行で,たとえばC→Am→F→G7を4和音にしてCM7→Am7→FM7→G7のように変えるだけで雰囲気ががらっと変わるので試してみよう.クラシックで鉄板のIV→V7→Iの代わりにジャズではII7→V7→I7(ツーファイブワン)が頻繁に用いられる.
短調の音階というものがはっきり決まっていれば話は簡単なんだけど,残念ながらちょっと複雑.
音程2122122の音階を自然短音階とよぶが,これはラから始めただけで実質的には全音階と同じ.音程2122131の音階を和声的短音階,音程2122221の音階を旋律的短音階とよぶ.たとえばAマイナーの場合,これらは次のようになる.
A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C | |
自然Aマイナー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||
和声的Aマイナー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||
旋律的Aマイナー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||
Aメジャー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||
Aドリアン | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
全音階のラシドレミファソラ(自然Aマイナー)から第7音ソを半音上げたのが和声的短音階,さらに第6音ファも半音上げると旋律的短音階.さらに第3音ドを半音上げると長調になるから,旋律的短音階は長調の音階の第3音を半音下げたものとも言える.
ちなみに,自然短音階から先に第6音を半音あげるとG全音階のドリアン.
つまり,長調と比較して第3音が半音低いのが短調の一番の特徴だけど,第6音と第7音に関してはいくつかバリエーションがある.それらが同じ曲の中でいろいろ出てくるからやっかい.たとえば,ABCDEFEDCBのように第6音まで上がってから下がるようなメロディーだとFは半音上げないが,ABCDEF#G#Aのように上がりきる場合は旋律的短音階を用いることが多い.下がるほうも,AG#Aのように戻るときは旋律的(または和声的)だが,AGFEと下がりきるときは自然的短音階を使ったりする.
短調の音階はバリエーションがあるけれど,伴奏用の和音は和声的短音階の3度積み和音を使えばほぼ間違いない.
たとえばAマイナーの場合次のようになる.
番号 | 記号 | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F |
I | Am | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
II | Bm-5 | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
III | Caug | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
IV | Dm | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
V7 | E7 | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
VI | F | ● | ● | ● | ||||||||||||||||||
VII | G#m-5 | ● | ● | ● |
VはセブンスコードV7で代替する.
短調ではI, IV, V7の使用頻度が圧倒的に高いので,とりあえずその3つだけ覚えておこう.A-Minor.mp3
和声的短音階における3度積み4和音の表も載せておくけれど,見ての通りややこしい.響きは渋くて味わい深いが,各自の研究に任せる.A-Minor-Tetrad.mp3
番号 | 記号 | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F | F# | G | G# | A | A# | B | C | C# | D | D# | E | F |
I7 | AmM7 | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
II7 | Bm7-5 | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
III7 | CM7+5 | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
IV7 | Dm7 | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
V7 | E7 | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
VI7 | FM7 | ● | ● | ● | ● | |||||||||||||||||
VII7 | G#dim | ● | ● | ● | ● |
曲の途中で使用する音階が変わることを転調という.
同じ繰り返しばかりで曲が単調になるのを避けたいときなどに用いるが,転調しないと単調で飽きる時点でかなりやばい.
最もよく使われる転調は,長調から短調(またはその逆)の転調である.そのときに,たとえばCメジャーからAマイナーのように長調から3度下の短調(または短調から3度上の長調)の転調が最も一般的で,平行調への転調という.CメジャーからCマイナー(またはその逆)のような同主調の転調もよく行われる.
全音階において第4音を半音上げると5度(半音7つ)ずれた全音階になる.これを属調への転調とよぶ.たとえばCメジャーの第4音を半音上げると属調のGメジャーになる.逆に属調から見れば,全音階の第7音を半音下げると元の全音階に戻るわけだが,これを下属調への転調という.これら5度の転調はクラシック音楽では頻繁に行われるが,音域が変わりすぎるので,歌がメインのポップスではほとんど使われない.
Cメジャー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||||||||||||
Gメジャー | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
ポップスでは半音2つ分の転調がよく使われる.半音1つや3つといった転調もけっこう多いが,いきなり使える音ががらっと変わるので,メロディーの繋がりとか完全に無視で,全部の音を一旦停止していきなり新しい調でスタートするというような転調の仕方をする.音楽理論的には技術もへったくれもない.
©2017 Masaaki Wada