3.音類
異なる2音pとp'を聴き比べた時に最も似た音のような感じがするのは,それらがちょうど1オクターブの音程の時である.このとき,p'の倍音は完全にpの倍音に含まれており, それが音が似ていると感じられる理由である.
このオクターブ違いの音を区別せずに同じ種類の音と考えることにすれば,すべての音は12種類の音に分類できることになる.この分類は,音楽を理解する上では非常に有用であって,ほとんどすべての音楽理論で採用されている.すなわち,音名としてのA, B, C, D, E, F, Gや,イロハニホヘト等がそれである.たとえば,Cには24, 36, 48, 60, 72, 84, 96, 108と様々なCがあるのだが,それらをすべて同じCという名前で呼んでしまうのがここでいう分類にあたる.
音類 (pitch class)
音の高さを音番という数字で表す記法においては,12で割って余りが等しい音は同じ種類と考えることになる(注1).この同じ種類の音の集まりを音類と呼ぶ.音pを含む音類を[p]で表す.たとえば,[60] = [72] = [0]である.音類と音名の関係を示す.
音類 |
[0] |
[1] |
[2] |
[3] |
[4] |
[5] |
[6] |
[7] |
[8] |
[9] |
[10] |
[11] |
|
音名 | 日本語 | ハ | 嬰ハ 変ニ |
ニ | 嬰ニ 変ホ |
ホ | ヘ | 嬰ヘ 変ト |
ト |
嬰ト 変イ |
イ | 嬰イ 変ロ |
ロ |
英語 | C | C♯ D♭ |
D | D♯ E♭ |
E | F | F♯ G♭ |
G | G♯ A♭ |
A | A♯ B♭ |
B | |
ドイツ語 | C | Cis Des |
D | Dis Es |
E | F | Fis Ges |
G | Gis As |
A | Ais B |
H |
ポピュラー音楽で用いられる英語音名では[11]がB(ビー)であるのに対し,クラシック音楽で用いられるドイツ語音名では[10]をB(ベー),[11]をH(ハー)と呼び,同じ記号Bがジャンルによって[10]だったり[11]だったりするので注意が必要である.
音類空間 (pitch class space)
音類は,時計の文字盤のように,円周上に配置されていると考えるのが便利である.このように音類が配置された円を音類空間と呼ぶ.音類空間は,右図に示すように,音番をらせん状に配置しておいて円周上に投影したものと理解すべきである(注2).
音類空間 |
類間音程 (pitch class interval)
2音間の差を音程と呼んだのと同様に,2つの音類間の差を考え,類間音程と呼ぶ.[p]から[p']への類間音程は,音類空間上で[p]から時計回りに数えて[p']までの距離のことである.0フレット類から11フレット類の12の類間音程が存在する.類間音程は,音程におけるオクターブ違いをすべて同一視したものと考えてもよい.たとえば,15フレット音程も3フレット音程も-9フレット音程も,類間音程としては同じ3フレット類に属する.
類間音程に対しても,逆音程の概念を自然に拡張することができる.たとえば,3フレットの逆音程である-3フレットは9フレット類に属するから,3フレット類 (=短3度類)と9フレット類 (=長6度類)が逆音程の関係になる.1~11フレット類の逆音程は,12からその数字を引けば求められる.0フレット類の逆は0フレット類自身である.
類間音程 |
0フレット類 (ユニゾン類) |
1フレット類 (短2度類) |
2フレット類 (長2度類) |
3フレット類 (短3度類) |
4フレット類 (長3度類) |
5フレット類 (完全4度類) |
6フレット類 |
↑逆↓ |
↑逆↓ |
↑逆↓ |
↑逆↓ |
↑逆↓ |
↑逆↓ |
↑逆↓ |
|
類間音程 |
0フレット類 (ユニゾン類) |
11フレット類 (長7度類) |
10フレット類 (短7度類) |
9フレット類 (長6度類) |
8フレット類 (短6度類) |
7フレット類 (完全5度類) |
6フレット類 |
音程類 (interval class)
2つの音類の順を考えない場合には,類間音程とその逆を区別する必要がなく,それらを同一視して音程類と呼ぶ.音程類は,音類空間における2音類間の(近い方の)距離のことと考えてよい.音程類は0フレット類から6フレット類の7種類存在する.
⇒4.和音
(注1) これは,数学における12を法とした剰余類の概念と同じものである.
(注2) らせん状の音空間はM. W. Drobishが1855年に最初に提唱したと言われている.