Masaaki Wada (watercolor portrait by Jesus Guajardo)
作曲家 和田昌昭
Masaaki Wada
Composer
English page
  1. はじめに
  2. 音高と音程
  3. 音類
  4. 和音
  5. 全音階
  6. 和声
  7. 旋律

4.和音

和音 (chord)

複数の音の集まりを和音と呼ぶ.和音は構成音の音番の集合{p1, p2, ..., pn}として表すことができる(注1).

2音からなる和音をダイアド,3音からなる和音を三和音(トライアド),4音からなる和音を四和音(テトラド)等と呼ぶ.

移調 (transposition)

和音{p1, p2, ..., pn}に対し,各構成音にある音程iを加えて{p1+i, p2+i, ..., pn+i}とすることを,iフレットの移調と呼ぶ.移調で移り合う和音どうしは同じ型を持つと言う.

和音のある種の特性は,移調しても変わらない.たとえば,{60, 64, 67}のCメジャーコードを+2フレット移調したものは,{62, 66, 69}のDメジャーコードであるが,これらの和音は同じ型を持ち,どちらも同じ響き方に感じられる.

音程構造

和音の構成音を小さいほうからp1, p2, ..., pnとし,pjとpj+1間の音程ij=pj+1-pjを順に並べた組(i1, i2, ..., in-1)を,和音の音程構造と呼ぶことにする.たとえば,{60, 64, 67}の音程構造は(4,3)である.和音を移調しても音程構造は変わらないので,同じ型の和音は同じ音程構造を持つ.逆に,音程構造が等しい和音どうしは,移調によって移り合い,よって同じ型である.従って,音程構造は,和音の型を数値的に表現したものと考えてよい.

和音類

和音を個々の音の組合せと考えると膨大な数の和音が存在するが,まずはオクターブ違いの音を区別せずに,和音を複数の音類から構成されるものと考えることが和音の理解に非常に有効である.

音類の集まり{[p1], [p2], ..., [pn]}を和音類と呼ぶ.和音{p1, p2, ..., pn}に対して,構成音pjを音類[pj]に置き換えて得られる和音類を,その和音が属する和音類と呼ぶ.

同じ和音類に属する和音どうしは,構成音をオクターブ違いの音で置き換えたり,あるいはオクターブ違いの音を重複させたりして得られるものであって,それらは互いに非常に似た響き方をし,多くの場合,互いに置き換え可能である.たとえば,一般にCメジャーコードと言えば,それは和音類{[0], [4], [7]}のことを指す.{60, 64, 67}は和音類{[0], [4], [7]}に属する一つの和音である.ギターの典型的なCコードは,和音としては{43, 48, 52, 55, 60, 64}であるが,これも同じ和音類{[0], [4], [7]}に属する.

和音類は,音類空間において,構成要素の音類を頂点とした多角形で表すことができる.例として,和音類{[0], [4], [7]}に対する三角形を示す.

0-4-7

和音類にも移調の概念を拡張することができる.すなわち,和音類{[p1], [p2], ..., [pn]}をiフレット移調すれば,{[p1+i], [p2+i], ..., [pn+i]}となるが,これは,音類空間で和音類の多角形を時計回りにi/12回転することに対応する.移調で移り合う和音類は,同じ型を持つと言う.従って,和音類の型は,音類空間の多角形の形で表されることになる.

音楽を理解する上で,和音類の音の響き方の特性を感覚的に知ることは非常に重要である.自分の知っている和音が,それぞれどういう形の多角形になるかを確かめてみよ.また,様々な形の多角形がどのような和音の響きになるか,試してみよ.

和音類の音程構造

和音類表す音類空間の多角形の周を時計回りに一周するとき,各辺に対応する類間音程を順に並べた組(i1, i2, ..., in)を,和音類の音程構造と呼ぶ.どの辺から並べ始めるかは任意であるから,並びを巡回的に置換した(i2, i3, ..., in, i1), (i3, ..., in, i1, i2)等も同じ音程構造を表している.すなわち,和音類の音程構造は円順列と考えるべきである.たとえば,和音類{[0], [4], [7]}の音程構造は,上図より(4, 3, 5)であるが,それを巡回置換した(3, 5, 4),あるいは(5, 4, 3)も同じ音程構造を表していると考える.

和音類の音程構造は,定義の仕方により,明らかにi1 + i2 + ... + in = 12を満たす.従って,音程構造の組から最後の項を除いた(i1, i2, ..., in-1)だけでも音程構造が一意的に定まることに注意する.すなわち,i1 + i2 + ... + in-1が12に足りないときは,不足分をinとして補って音程構造と考えることができる.

和音類の音程構造は,移調によって変化せず,和音類の型を数値的に表したものになっている.

配置 (voicing)

和音類が与えられた時に,その和音類に属する和音を一つ具体的に選ぶことを,和音の配置と呼ぶ.同じ和音類に属する和音であるから,どの配置でも響き方のおおまかな特性は似ている.しかし,和音の響きの細かいニュアンスは,当然個々の配置によって異なる.実際の音楽中でどのような配置が用いられるかは,和音としての響き方だけではなく,使用する楽器の種類や音域,前後の和音や旋律等さまざまな事項を考慮して決定される.

和音の配置のうちで,最高音と最低音の音程が1オクターブ以内のものを密集配置と呼ぶ.任意の和音類に対して,密集配置が存在する.実際,各構成音類に対して,たとえば音番60~71の範囲の音を選ぶことが必ずできて,結果は密集配置となる.

密集配置の和音に対する音程構造(i1, i2, ..., in-1)は,i1 + i2 + ... + in-1 < 12となっており,その和音が属する和音類の音程構造から最後の項を取り除いたものになっている.従って,12への不足分をinとして補えば,対応する和音類の音程構造になる.

転回 (inversion)

一般に,和音の構成音を小さいほうからp1, p2, ..., pnとするとき,最小構成音であるp1を1オクターブ上のp1+12で置き換えることを転回と呼ぶ.転回は音類を変えない操作であるから,転回によって和音類は変わらない.

密集配置の和音を転回すれば,構成音は小さい方から順にp2, ..., pn, p1+12となる.このとき,音程構造は,一旦項を追加して和音類の音程構造としたものを巡回置換し,それから最後の項を除いたものになる.たとえば,和音{60, 64, 67}を転回すれば,{64, 67, 72}となるが,その音程構造は,(4, 3)=(4, 3, 5) → (3, 5, 4)=(3, 5)のように変化する.

和音の特性

和音がどのような響き方をするかを感覚的に知ることは非常に重要であって,どのジャンルにおいても,音楽家は和音類や個々の和音の響きを長時間かけて学習する.そうして学習した和音どうしがどのような関係になっているかを整理しておくことは有用であろう.

ダイアド(dyad)

和音のうち2音類からなるものをダイアドと呼ぶ.普通,2音からなるものは独立した和音とは見なされないが,すべての和音はその部分としてダイアドを含み,それらのダイアドの響き方が和音全体の響き方に反映するのであるから,ダイアドの響き方を理解することが和音の理解の基本になる.

ダイアドの響き方は,2つの構成音間の音程によって決まる.たとえば,60と63,61と64,62と65は,音の高さは異なるが,いずれも3フレット音程であり,同じ響き方である.同時に鳴らしたときの音の響き方のみを問題とするならば,音程とその逆音程を区別する必要はない.

さらに,構成音をオクターブ違いの音で置き換えたものも似た響き方ということで同一視するならば,ダイアドの響き方は音程類によって決まる.すなわち,ダイアドの響き方は,大きく分けて,1フレット類型から6フレット類型までの6種類に分類される.それぞれの響き具合を下に書いてみるが,感じ方は人それぞれと思う.実際に音を鳴らして,各音程類型の特徴を理解せよ.

1フレット類型ダイアド

最も不協和的で緊張感のある種類のダイアドである.実際には,1フレット,11フレット,13フレットではかなり響き具合が違うことに注意.

2フレット類型ダイアド

独特の弱い緊張感がある.2フレット,10フレット,14フレット等.

3フレット類型ダイアド

協和的で安定した響きのダイアド.明暗で言えば暗い響き.3フレット,9フレット,15フレット等.

4フレット類型ダイアド

同じく協和的で安定した響きのダイアドで,明るい響き.4フレット,8フレット,16フレット等.

5フレット類型ダイアド

協和的で非常に強い安定感があるが,固い感じ.5フレット,7フレット,17フレット,19フレット等.

6フレット類型ダイアド

6フレットの移調によって2つの構成音類が入れ替わるという対称性のために,独特の不安定感がある響き.6フレット,18フレット等.

三和音 (triad)

三和音を3つの音類から構成されるものと考えるならば,12の音類から3つを選んだ組合せであり,220種類の三和音が存在することになる.しかし,移調によって移り合う三和音を区別せずに,和音類の型のみを問題とするならば,三和音は音程構造で類別され,次の19種類になる:(1,1,10), (1,2,9), (1,3,8), (1,4,7), (1,5,6), (1,6,5), (1,7,4), (1,8,3), (1,9,2), (2,2,8), (2,3,7), (2,4,6), (2,5,5), (2,6,4), (2,7,3), (3,3,6), (3,4,5), (3,5,4), (4,4,4).

これらのうち,一般的に最も使用頻度が高いのは,次の2つの三和音である.

(4,3,5)

(4, 3, 5)型

(4, 3)配置は長三和音(major triad)と呼ばれる.非常に安定した明るい響き.

(3,4,5)

(3, 4, 5)型

(3,4)配置は短三和音(minor triad)と呼ばれる.非常に安定した暗い響き.

音程構造をよく見れば,長三和音の構成音を一つ変更して短三和音(またはその転回形)に変更する方法が3種類あることがわかる.すなわち,長三和音のの第1音を1フレット下げる,第2音を1フレット下げる,第3音を2フレット上げる,の3種類の方法で短三和音に変更できる.和音を単独で理解するのではなく,このような和音間の関係を知ることが重要である.

次いで使用頻度の高いトライアドは,次の2つである.

(3,3,6)

(3, 3, 6)型

(3, 3)配置は減三和音(diminished triad)と呼ばれる. 含まれる6フレットのために,ちょっと不安定な暗めの響きとなる.

(4,4,4)

(4, 4, 4)型

増三和音(augmented triad)と呼ばれ,どの2音も4フレット類ダイアドとなる特殊な和音である.4フレット移調で不変という対称性のために不安定な響きである.

他の15種類の三和音についても,各自研究されたい.たとえば,シェーンベルクらの新ウィーン学派は(1,5,6)類三和音を愛用した.

四和音 (tetrad)

同様に音程構造で分類すれば,次の43種類の四和音が存在する(注2).(1,1,1,9), (1,1,2,8), (1,1,3,7), (1,1,4,6), (1,1,5,5), (1,1,6,4), (1,1,7,3), (1,1,8,2), (1,2,1,8), (1,2,2,7), (1,2,3,6), (1,2,4,5), (1,2,5,4), (1,2,6,3), (1,2,7,2), (1,3,1,7), (1,3,2,6), (1,3,3,5), (1,3,4,4), (1,3,5,3), (1,3,6,2), (1,4,1,6), (1,4,2,5), (1,4,3,4), (1,4,4,3), (1,4,5,2), (1,5,1,5), (1,5,2,4), (1,5,3,3), (1,5,4,2), (1,6,2,3), (1,6,3,2), (1,7,2,2), (2,2,2,6), (2,2,3,5) (2,2,4,4), (2,2,5,3), (2,3,2,5), (2,3,3,4), (2,3,4,3), (2,4,2,4), (2,4,3,3), (3,3,3,3).これらのうち,使用頻度の高いもののみをいくつか挙げる.他の四和音についても各自研究せよ.

(2,4,3,3)

(2, 4, 3, 3)型

(4, 3, 3)配置は属七(dominant 7th)の和音と呼ばれ,最も使用頻度の高い四和音類である. 含まれる6フレット音程のために不安定感がある.

(1,4,3,4)

(1, 4, 3, 4)型

(4, 3, 4)配置が長七(major 7th)の和音と呼ばれる.二つの4フレット音程が明るい雰囲気を持ち1フレット音程がそれに独特の浮遊感を与える.

(2,3,4,3)

(2, 3, 4, 3)型

(3, 4, 3)配置は短七(minor 7th)の和音と呼ばれる.(4, 3, 2)配置は長六の和音である.長三和音と短三和音の特徴を兼ね備えた,非常に安定した四和音である.

(2,3,3,4)

(2, 3, 3, 4)型

(3, 3, 4)配置が導七の和音,英語ではhalf diminishedと呼ばれる.

(3,3,3,3)

(3, 3, 3, 3)型

減七の和音と呼ばれる.6フレット音程に加えて,3フレット移調に対する対称性のために,不安定な独特の響きがする.

コードネーム (chord symbol)

20世紀の初め頃にジャズで伴奏に使う和音類を表すために C, Dm7, DbM7 等のコードネームが使用されるようになり,現在はポピュラー音楽でも広く利用されている.最初に根音の音類を英語音名で書き,その後ろに和音の型を示す種々の記号を付加する.代表的なものについて,根音をCとした場合のコードネームと音程構造の関係を示す.

コードネーム
読み方
音程構造
C
C または Cメジャー
(4, 3)
Cm
Cマイナー
(3, 4)
Cdim
Cディミニシュト
(3, 3)
Caug
Cオーグメンテド
(4, 4)
C7
Cセブンス
(4, 3, 3)
CM7, Cmaj7
Cメジャーセブンス
(4, 3, 4)
Cm7
Cマイナーセブンス
(3, 4, 3)
CmM7
Cマイナーメジャーセブンス
(3, 4, 4)
Cm7-5, Cm7b5
Cマイナーセブンス フラッテドフィフス
(3, 3, 4)
Cdim, Cdim7
Cディミニシュト(注3)
(3, 3, 3)

5.全音階


(注1) 集合には括弧{}を用い,要素の順番や重複は気にしない.{a, b}も{b, a}も{a, b, b}も同じ集合と考える.一方,組は丸括弧()を用い,要素の順序も含めて考える.(a, b), (b, a), (a, b, b)はすべて区別する.

(注2) 要チェック(笑)

(注3) ジャズにおいては減三和音も減七和音もディミニシュトと呼ばれ区別されないことが多い.