Masaaki Wada (watercolor portrait by Jesus Guajardo)
作曲家 和田昌昭
Masaaki Wada
Composer
English page
  1. はじめに
  2. 音高と音程
  3. 音類
  4. 和音
  5. 全音階
  6. 和声
  7. 旋律

6.和声

長調の和音

調性音楽においては,当然,音階に属する音類からなる和音が主に使用される.

その中でも特に使用頻度の高いのは,三度堆積和音,あるいはダイアトニックコードと呼ばれる,基音,3度,5度,7度と音階の一つおきの音類を取ってできる和音である.古典的な調性音楽においては主に三和音が使用される.ただし,Vの和音だけは属七の和音が使用されることが多い.

長調の三度堆積三和音
和音記号
I
II
III
IV
V
VI
VII
構成音
ドミソ
レファラ
ミソシ
ファラド
ソシレ
ラドミ
シレファ
音程構造
(4, 3)
(3, 4)
(3, 4)
(4, 3)
(4, 3)
(3, 4)
(3, 3)
コード
C
Dm
Em
F
G
Am
Bdim
機能
T
S
(T)
S
D
(T)
D

コードはハ長調におけるものである.ハ長調のポピュラーソングの多くはこれら7種類のコードだけで伴奏できる.機能については下で説明する.

ジャズにおいては三度堆積四和音が使われる.

長調の三度堆積四和音
和音記号
I7
II7
III7
IV7
V7
VI7
VII7
構成音
ドミソシ
レファラド
ミソシレ
ファラドミ
ソシレファ
ラドミソ
シレファラ
音程構造
(4, 3, 4)
(3, 4, 3)
(3, 4, 3)
(4, 3, 4)
(4, 3, 3)
(3, 4, 3)
(3, 3, 4)
コード
CM7
Dm7
Em7
FM7
G7
Am7
Bm7-5
機能
T
S
(T)
S
D
(T)
D

機能和声 (functional harmony)

18世紀に成立した和声学では,和音を機能によって3種類に分類する.

名称
記号
機能
和音
代理和音
トニカ
T
落ち着きを表す I III, VI
ドミナント
D
緊張を表し,トニカに移行(解決と言う)しようとする V VII, (III)
サブドミナント
S
発展を表す IV II, (VI)

たとえば,T→S→D→Tという和声進行は,平和な雰囲気(T)に何かが起こり(S)それが緊張状態(D)になったあと再び落ち着いた状態(T)に解決する, という心理状態の遷移を引き起こすというふうに考えるわけである.古典的な和声学の様々な規則は,例外だらけで規則としては役に立たないが,いろんな音楽から抜き出したパターンという意味では,現代のポピュラー音楽にも通ずる考え方である.たとえば,C→F→G7→Cというコード進行を,多くの人は上に述べたT→S→D→Tというパターンとして聴いているであろう.

典型的にはT, D, SはそれぞれI, V, IVの和音に対応するが,代理和音が用いられることもある.たとえば,IIIはIの代理和音として用いられることもあれば,Vの代理和音となることもある.はっきりしろと言いたいところだが,要は,あまり厳密に考えても仕方ないということであろう.

S→D→Tは最もよく用いられる和声進行の一つだが,ジャズにおいては IV→V→I ではなくもっぱら II→V→I (II7→V7→I7)という和音進行が好んで使用される.これをツーファイブワン,あるいはツーファイブと呼ぶ.

短調

短調では,自然的短音階以外に2種類の異なる音階が使用される.

音階
音程構造
自然的短音階
(2, 1, 2, 2, 1, 2, 2)
和声的短音階
(2, 1, 2, 2, 1, 3, 1)
旋律的短音階
(2, 1, 2, 2, 2, 2, 1)
長音階
(2, 2, 1, 2, 2, 2, 1)

自然的短音階の第7音を半音上げたものが和声的短音階で,さらに第6音も半音上げたものが旋律的短音階である.さらに第3音を半音上げると長音階になるので,これらの短調音階は,自然的短音階から長音階へ徐々に変化する音階の系列であると考えることもできる.

短調の曲では,必ずしも一つの音階のみが用いられるわけではなく,これら3つの音階を混ぜて使うことも多い.

旋律的短音階を使用する場合,上行(音が上がって行く時)には旋律的短音階を使用して,下行(音が下がる時)は自然的短音階を使用する,というようなことが言われたりするが,バッハ先生の楽譜を見ればそんな規則はおかまいなしに3つの音階を自由に使い分けていることがわかる.ジャズで旋律的短音階が用いられる場合は,先に和音が決まっている関係で,上行も下行も旋律的短音階である.

短調の和音

短調の三度堆積三和音
和音記号
I
II
III
IV
V
VI
VII
構成音
ラドミ
シレファ
ドミソ
レファラ
ミソシ
ファラド
ソシレ
自然的短音階
音程構造
(3, 4)
(3, 3)
(4, 3)
(3, 4)
(3, 4)
(4, 3)
(4, 3)
コード
Am
Bdim
C
Dm
Em
F
G
和声的短音階
音程構造
(3, 4)
(3, 3)
(4, 4)
(3, 4)
(4, 3)
(4, 3)
(3, 3)
コード
Am
Bdim
Caug
Dm
E
F
G#dim
旋律的短音階
音程構造
(3, 4)
(3, 4)
(4, 4)
(4, 3)
(4, 3)
(3, 3)
(3, 3)
コード
Am
Bm
Caug
D
E
F#dim
G#dim

コードはイ短調におけるものである.

ジャズでは基本的に四和音を用いる.和声的あるいは旋律的短音階が用いられることが多い.

短調の三度堆積四和音
和音記号
I7
II7
III7
IV7
V7
VI7
VII7
構成音
ラドミソ
シレファラ
ドミソシ
レファラド
ミソシレ
ファラドミ
ソシレファ
自然的短音階
音程構造
(3, 4, 3)
(3, 3, 4)
(4, 3, 4)
(3, 4, 3)
(3, 4, 3)
(4, 3, 4)
(4, 3, 3)
コード
Am7
Bm7-5
CM7
Dm7
Em7
FM7
G7
和声的短音階
音程構造
(3, 4, 4)
(3, 3, 4)
(4, 4, 3)
(3, 4, 3)
(4, 3, 3)
(4, 3, 4)
(3, 3, 3)
コード
AmM7
Bm7-5
CaugM7
Dm7
E7
FM7
G#dim
旋律的短音階
音程構造
(3, 4, 4)
(3, 4, 3)
(4, 4, 3)
(4, 3, 3)
(4, 3, 3)
(3, 3, 4)
(3, 3, 4)
コード
AmM7
Bm7
CaugM7
D7
E7
F#m7-5
G#m7-5

近親調

同じ全音階に付随する長調と短調,すなわち,[p]長調と[p-3]短調の関係を平行調と呼ぶ.たとえば,ハ長調とイ短調は平行調である.

ある調に対して,それを+7フレット移調した調を属調と呼び,その平行調を属調平行調と呼ぶ.また,-7フレット移調した調を下属調と呼び,その平行調を下属調平行調と呼ぶ.たとえば,ハ長調の属調はト長調,属調平行調はホ短調,下属調はヘ長調,下属調平行調はニ短調である.これらの調が属する属音階と下属音階は,元の全音階において一音だけを上下させた音階であった.

長音階と旋律的短音階の差も3度音類の半音上下だけなので,同じ中心音をもつ長調と短調も音階的に近い関係にある.これらを同主調と呼ぶ.

平行調,属調,属調平行調,下属調,下属調平行調,同主調の6つを近親調と呼ぶ.それ以外の調は遠隔調と呼ばれる.

転調

曲の途中で調が変更されることを転調と呼ぶ.機能和声のトニカ,ドミナント,サブドミナントが曲の局所的な変化を記述するのに対して,転調はより大局的な曲調の変化と考えられる.

古典派の曲においては,機能和声により調性がしっかり認識されており,転調も近親調へのはっきりとわかる転調がほとんどであった.それがロマン派になると,次第に旋律や和音に音階に含まれない音が用いられるようになってゆき,転調も遠隔調への複雑な転調が頻繁に行われるようになっていく.そもそも,聴く者にはっきり調を認識させるからこそ転調が変化として感じられるのであるから,調性自体がはっきりしなければ転調は意味を失う.後期ロマン派における調性の崩壊と同時に,転調のダイナミズムも失われた.

さて,転調が転調として感じられるためには,少なくとも転調先の調の音で原調には含まれない音が使用される必要がある.そのために最もよく用いられる方法は,転調先の音階で V7→I という和声進行を行うことである.たとえば,ハ長調から属調のト長調に転調するための最も簡単な方法は,C→D7→G という和音進行を用いることである.ハ長調から下属調であるヘ長調への転調であれば,C→C7→F とすればよい.

ジャズにおいては,非常に頻繁に転調が行われる.その際に調性を確立するのは,ツーファイブワン (II7→V7→I7)である.

7.旋律