Masaaki Wada (watercolor portrait by Jesus Guajardo)
作曲家 和田昌昭
Masaaki Wada
Composer
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宿酔

ご存じない方のために説明しておくと,「宿酔」は2009年に作曲した中原中也歌曲集の終曲ですが,2014年3月7日放送の探偵!ナイトスクープ出演がきっかけで,YouTubeの動画が80万回再生のヒットとなりました.

宿酔動画

YouTubeの動画はこれです.

http://www.youtube.com/watch?v=-lg1Gdyi1jQ

本当に多数の方に視聴していただきありがとうございます.

楽譜

聴くだけでなく,楽譜が見たい,演奏してみたいという方もおられるようですので,楽譜を公開します.

宿酔楽譜(pdfファイル)

無料です. リンクを右クリックしてディスクに保存して下さい.

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 4.0 国際 ライセンスにしておきます.原作者のクレジット(たとえば「詩:中原中也 作曲:和田昌昭」など)を表示し,かつ非営利目的であることを条件に演奏,編曲,ネット掲載等自由に行っていただいてけっこうです.みんなで楽しみましょう.

営利利用に関する問い合わせがありましたらメールでお願いします.

楽譜は,クリエイティブ・コモンズ関係の注を書き足した以外は作曲時のままです.当時は「作曲家の仕事は音程と長さを決めて音楽の骨格を作ること,それに表情をつけてリスナーに届けるのは演奏家の仕事」という考えを強く持っていたので,強弱やニュアンスを表す演奏記号は書き込んでいません.そんなものは演奏家が自分の解釈で自由にやったらいい,という考え方です.でも今は演奏者を見て演奏記号を加えたり,あまりこだわりなくやってますけどね.

カラオケ

カラオケで宿酔を歌いたいという声があったのでリクエストを呼びかけてみたら,JOYSOUNDで配信してもらえることになりました.

カラオケ音源はiTunesAmazon mp3でダウンロード購入可能です.また,山羊の歌CDにも収録していますので,自宅で歌いたい方はどうぞ.

宿酔について

宿酔を作曲したのは2009年7月5日です.本格的に作曲活動を開始したのが2005年ごろですから,4年目ぐらいの作品ということになります.

僕はシューベルトやヴォルフなどクラシックの歌曲が好きなのですが,現代の歌曲を作るとすればどのようなものだろうと考え,好きな詩人である中原中也の「山羊の歌」からサーカス,朝の歌,都会の夏の夜,帰郷,夏の日の歌,秋の夜空,宿酔の7つを選んでピアノ伴奏の歌曲集を作曲しました.

山羊の歌7曲のスタイルがバラエティに富みすぎで,全部を通して歌ってもらえそうな歌い手さんが周りに見当たらず,仕方がないので2ヵ月ほど練習して自分で歌ってみたのがYouTubeの動画です.その後1年半ほどの間に何度かテイクを録り直し,最終的にCD化してiTunesAmazonでダウンロードできるようになっています.音質はCD=iTunes=Amazon版が断然いいです.歌もいくらか上手になったと思いますが,YouTubeビデオのほうが勢いがある部分もありますね.

宿酔の読みですが,僕は「しゅくすい」と読んでいます.「ふつかゑひ」と聞くと今の人は「二日酔い」という字を想像してしまうので,「しゅくすい」「それ何?」「やどに酔うと書いてふつかよいのこと」というやりとりを想定した上で「しゅくすい」のほうがいいかなという理由です.だから曲のタイトルとしては「しゅくすい」です.ちなみに,中也の詩のタイトルは漢字で「宿酔」とあるだけです.時代的に考えるとたぶん「ふつかゑひ」なんでしょうね.まあどっちでもいいと思います.

詩の内容は,読む人が自由に感じればよいと思います.曲も,こう聴かないといけないなんてルールはありません.自由に感じるままでよいと思います.とは言っても初めて中也の詩に接する人は何が何やらさっぱりかもしれません.僕なりに「宿酔」の解説をしてみます.

飲み過ぎて二日酔いになった朝の気分なんて誰が題材にするか?と思うところを詩にしちゃうところが中也です.晴れて風が吹いているだけなのに,「鈍い」と付けるだけで太陽が無駄に眩しく風も肌に痛く感じるから不思議です.ふらふらで眼のまわりに星がとび頭がガンガン痛い二日酔いの様子を,「千の天使がバスケットボール」と表現するセンスは天才です.目をつむると,なんて馬鹿なことをしているんだろうと悲しい気持ちになるんでしょう.きっと夜中までストーブを囲んで友人と議論し合ったんですね.今は火が消えて白っぽく錆びているだけのストーブが目に入ってきて飲み明かした昨夜を虚しく想い出すばかりです.


宿酔





朝、鈍い日が照つてて
  風がある。
千の天使が
  バスケットボールする。

私は目をつむる、
  かなしい酔ひだ。
もう不用になつたストーヴが
  白つぽく びてゐる。

朝、鈍い日が照つてて
  風がある。
千の天使が
  バスケットボールする。
青空文庫

中也の生き様に興味が湧いたら僕が以前に書いた中原中也「山羊の歌」覚え書きも読んでみて下さい.