レーベルの作り方 2. パッケージング
CDで音楽を楽しむ人が減り,CDプレーヤー自体持っていないという若者もいる中で,今後CDパッケージが必要かどうかは考える必要があるかもしれません.でもライブを中心に活動するミュージシャンの場合,ライブ会場でお客さんに音楽を買ってもらうための方法として,まだまだCDパッケージの需要があるのではないでしょうか.
CDは音楽家にとって名刺代わりという側面もあります.工場プレスしたCDパッケージを作るには,音源制作やパッケージデザインを含め数万円から数十万円かかりますから,CDを出しているというだけで,ある程度本気で音楽に取り組んでいる人だと信用してもらえます.
僕は,CD-Rで少数部作成したパッケージを個人的なプレゼントにしたりもしています.世界に一つだけのCDなんて素敵じゃないですか.
CDパッケージ
工場に依頼してCDパッケージを作成するには,CDのオーディオデータ以外に,CDレーベル面,表カード(ジャケット),裏カード(インレイ),キャップ(帯)のデザインデータが必要です.
CDオーサリング
音楽CDには曲の音声データ以外に,JANコード,ISRCコードなどが記録されています.音楽CD用データを用意するには,CDオーサリングソフトを使います.
WaveBurner | Toast 11 Titanium |
僕はLogic Studioに付属していたWaveBurnerというオーサリングソフトを使っていますが,最新のLogic Pro XにはWaveBurnerがついてこないようです.WaveBurnerは,DDPイメージとよばれるCDプレス用のディジタルデータを出力することができるので,それをDVD-Rに焼いて工場に渡してCDプレスしてもらいます.
オーサリングソフトとしてポピュラーなのはToastでしょうか.ToastはDDPイメージファイルを出力できませんので,CD-Rを焼いて工場に送り,それをマスターとしてCDプレスしてもらうことになります.もしもエラーが起きた場合に備えてCD-Rを2枚工場に送るのが一般的なようです.
これらのオーサリングソフトでは,曲の音声データを読み込んでリニアPCM,44.1kHz,16ビット,2chステレオのCDフォーマットに変換する他,曲間のギャップを調整したり,CD-TEXT,JAN,ISRC等の付随データを入力したりできます.
CD-TEXTは,一部のCDプレーヤーで曲タイトルが表示されるようですが,特に入力しなくても問題ないでしょう.
JANはバーコードデータで,これがCDの正式な識別コードになります.ISRCは曲トラックごとの識別コードです.これらについては後に詳しく述べます.
デザインデータ
工場でCDプレスする場合,指定されたテンプレートを用いてAdobe Illustratorでデザインデータを作成する必要があります.
僕の最初のアルバム「木管三重奏曲集」はfeeltone musicでCDプレスをお願いしましたが,そのときに入稿したデザインデータを置いておきます.初めてCDプレスする方には参考になるかと思います.
レーベル面や付属印刷物のどの面にどういう情報を記載するかは決まりがあって,日本レコード協会のRIS規格一覧表のページのRIS204「オーディオCDの表示事項及び表示方法」に書かれています.これに従わないといけないというものではないですが,従っていると見た目がプロフェッショナルです.
CDプレス
CDは,メディアの記録面にスタンパーと呼ばれる金型でプレスを行ってデータを記録します.一つのスタンパーで千枚のCDをプレスするのが標準になっているようです.CDプレスの費用はスタンパー作成が大部分なので,100枚プレスしても千枚プレスしても金額はそれほど変わりません.
バルクと言って,CDプレスとレーベル面印刷のみ千枚を工場に頼むと,日本国内工場では5万円程度,台湾の工場で作ると3万円程度です.
ケースに入れて二つ折り4ページの表カード,裏カード,キャップをつけてキャラメルラップした市販CDのようなパッケージを千枚作るには,国内工場で11万円,台湾工場で8万円程度かかります.
CD-R
CDが金型プレスによって記録面に凹みをつけてデータを記録するのに対し,CD-Rでは記録面の金属薄膜を赤外線レーザーで焼き切って凹みと同様の効果を得ます.CD-Rも一般的なCDドライブでデータを読み出すことができますので,音楽用CDとして使えます.
CD-Rは一枚一枚CD-Rドライブで記録するので,作成には枚数に比例した手間と費用がかかります.従って,音楽CDを大量に作るのであれば費用的にCDプレスが有利,少部数作るのであればCD-Rのほうが有利ということになります.実際は,概ね300枚以上であればCDプレス,100枚以下であればCD-Rという感じでしょうか.
自作CDパッケージ
もっと少なく20枚程度までなら,パッケージを自作するのが一番安上がりです.自作で流通可能なプラスティックケース入りパッケージに仕上げる方法を紹介しましょう.
CD-Rメディア
僕はいつも太陽誘電製のスピンドルケース50枚入のCD-Rメディアを使っています.
- CDR80WSY50BV 内径23mm 白 写真画質印刷可
- CDR80SPY50BR 内径46mm 銀色 印刷可
CDケース
CDケースの正式サイズについては,日本レコード協会発行のRIS203コンパクトディスク用附属品に書かれていますが,ここでは一般的なジュエルケースに基づいて話を進めます.
まほらがで使用しているCDケースは協和産業の製品です.もっと安価なケースも試みましたがプラスティック成形の精度に不満がありました.
デザイン
ジュエルケースを用いてパッケージを作成するためには,表カード(ジャケット)と裏カード(インレイ)が必要です.
表カード | 裏カード |
表カードは,自作なら1枚もの(2P)か二つ折(4P)でしょう.サイズは121mm(W)×120mm(H)です. 裏カードは150mm(W)×118mm(H)で,左右の6mm幅の部分が折れ曲がって背表紙になります.
デザイン自体は自由でよいのですが,パッケージを流通させるつもりならば,日本レコード協会RIS204「オーディオCDの表示事項及び表示方法」に従って各面に必要情報を掲載するのがよいと思います.Amazonを通じて販売する場合は外面にJANコード(バーコード)が印刷されている必要があります.
デザインにはAdobe Illustratorを使うのが最も便利です.IllustratorにはCD用のテンプレートが付属しているので簡単にデザインを始められます.プレス業者が提供しているテンプレートを用いてデザインしておけば,必要な場合にスムーズに工場プレスに移行できます.
デザインはカードサイズちょうどで作るのではなく,上下左右に各3mmのドブ(裁ち落とし)をつけて作成します.また,カードをカットする位置の目安としてトンボを作成します.CD用テンプレートにはこれらが最初から入っています.
トンボ |
印刷
最近のインクジェットプリンタは高性能で,CDパッケージの印刷はインクジェットプリンタで何の問題もないと思います.まほらがではエプソンEP-302を使っています.安いのにCDレーベル面の印刷までできる優れものです.
インクジェットプリンタは各社とも本体価格を安くしてインク代で儲けるというビジネスモデルのため,パッケージングで一番お金がかかるのがインク代だったりします.でも末永く愛聴してもらいたいCDなら色の経年変化等を考えて純正インクにこだわりたいところです.
印刷用紙
パッケージを美しく仕上げるコツは良質の紙を用いることです.紙が低グレードではどんな高性能のプリンタを用いても美しい仕上がりにはなりません.
ポートレート写真を用いて仕上がりにこだわるような場合は写真グレードの用紙が必須です.そうでなくてもスーパーファイングレードの用紙をお勧めします.
MHRGA006のパッケージングに用いた用紙のスペックを挙げておきますので参考にしてみて下さい.
表カード用:サンワサプライ JP-ERV3NA4
両面スーパーファイングレード 0.225mm厚 170g/平方m 白色95%
裏カード用:サンワサプライ JP-120RVA
両面スーパーファイングレード 0.16mm厚 120g/平方m 白色98%
カット
パッケージを数個作るだけならカッターと定規とカッティングマットで十分ですが,アルバムをいくつも出して最終的に何百セットも作るつもりならディスクカッターを用意するのがいいでしょう.作業効率が全然違います.まほらがではカール事務器のDC-210Nというディスクカッターを使用しています.
ディスクカッター | カットラインをトンボに合わせる |
ハンドルをレールに沿って動かすと中の円形カッターが下の紙をカットする仕組みで,簡単に正確なカットが行えます.カットラインをトンボに合わせて紙押さえで固定し,一旦レールを浮かしてハンドルをトンボの位置まで移動し,レールを下げてハンドルをトンボ間で往復させるとその部分だけきれいにカットできます.端まで切り落としてしまうと,カット位置の目安であるトンボがなくなってしまうので注意して下さい.
残りも同様に | 切り抜き終了 |
残りも同様に処理してカット終了です.
裏カードは折れ目の処理が必要です.ディスクカッター付属のミシン目刃を用いるのが最も簡単ですが,ここではカッターでできる方法を紹介しましょう.
折れ目のトンボに定規を当てる | カッターで紙の表面にスジをつける |
折れ目のトンボに定規を当てて,切ってしまわない程度の力でカッターでスジをつけます.どの程度の力加減がよいかは,紙の余白の部分で試してみて下さい.スジに沿って簡単に折り曲げられたらオッケーです.
残りのカットは表カードと同様です.
ケース組み立て
折れ目をつける | 裏カードをケースにはめ込む |
切り抜いた裏カードに折れ目をつけ,それを直角にしてケースのサラ部分にはめ込みます.
フタに表カードを入れて | ケース完成 |
トレイをはめてフタに表カードを差し込めばケースの完成です.
シュリンクラップ
CDを完成したケースに入れたら,それをOPP袋(ノリつきの開け閉め可能な袋)に入れてもよいのですが,開封自在の袋ではAmazonは商品として扱ってくれません.市販CDは通常キャラメル包装とよばれる仕方で包装されていますが,キャラメル包装用機械は何十万円もするので,ここではシュリンクラップと呼ばれる包装を紹介します.
左はシュリンク袋 | シュリンク袋に入れ終わったところ |
まずパッケージをシュリンクフィルムと呼ばれる材質でできた袋に入れます.
溶断式シーラーで口を閉じる | 不要部分は簡単にはずれる |
それを溶断式シーラーという機械ではさめば数秒で袋の口がくっつき,不要部分が簡単にはずせます.
ヒートガン | 回しながら袋を熱する |
次にヒートガンを使ってパッケージを回しながら袋に熱をかけていきます.縮んだシュリンク袋がケースにぴったりとくっついてパッケージの完成です.
使用したもの
- コンピュータ
- CD-Rドライブ
- CDレーベル面印刷可能なプリンタ
- Adobe Illustrator
- 両面印刷用紙 − サンワサプライ(JP-ERV3NA4,JP-120RVA)
- CDケース − 協和産業
- シュリンクフィルム − 協和産業
- ディスクカッター − カール事務器DC-210N
- 溶断式シーラー − カットくん30cm幅
- ヒートガン − 1500W ヒートガン
Adobe Illustratorは高いですね.
ディスクカッター,溶断式シーラー,ヒートガンは,他の用途にも使えることを考えるとそれほど高い買物ではないと思います.
それでも高いという場合はカッターとカッティングマットでがんばりましょう.シュリンクフィルムは時間をかければ大型ドライヤーでも縮みます.効率と包装の仕上げにこだわらなければ代用も可能でしょう.溶断式シーラーはないと厳しいかもしれませんが,CD用だけなら20cm幅の安いタイプでもいけますね.流通を考えないならOPP袋でもいいでしょう.