Masaaki Wada (watercolor portrait by Jesus Guajardo)
作曲家 和田昌昭
Masaaki Wada
Composer
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  1. 著作権
  2. パッケージング
  3. 流通
  4. JAN
  5. ISRC
  6. 広報

レーベルの作り方 1. 著作権

著作権,原盤権,実演家の権利について述べます.著作権法に書かれていることが基本なので,暇な時に音楽に関する条項だけ拾い読みしておくといいかもしれません.

1.1 著作権

自分が作った歌詞や曲を独占的に使用する権利です.何も手続きをしなくても,作詞をした時点,あるいは,作曲をした時点で著作者に自動的に著作権が発生します.

著作者と著作権者

著作権は譲渡することができ,売買したり契約の対象にしたりできます.ただし,著作権の移転は登録する必要があります.

音楽事務所所属のミュージシャンは,作った曲の著作権を音楽事務所に譲渡する契約を結んでいるのが普通です.その場合,著作者はミュージシャン自身,著作権者は音楽事務所です.

フリーの音楽家の場合,作った曲の著作権は自分が持っていることになります.

使用許諾

いくつかの例外を除き,歌詞や曲を利用するには,著作権者の許可を得る必要があります.

みんなが知っているようなヒット曲の場合,演奏するたびにみんながメールや手紙で著作権者の許可を求めたら事務手続きがたいへんなことになってしまいます.それを請け負って代行するのがJASRAC(日本音楽著作権協会)です.JASRACが著作権管理している作品は,ネット上の簡単な手続きで利用料を支払うだけで作品の使用許可が得られます.JASRAC以外にもいくつか音楽著作権管理を行っている団体があります.

一方,著作権者がJASRAC登録していない場合,相手の連絡先を探して「〜のBGMとしてあなたの○○という曲を使いたいのですがいいでしょうか」「いいですよ」というメールのやりとりをすればいいのですが,連絡先が見つからないこともありますし,連絡先がわかったとしても,「相場はいくらぐらいだろう」とか「無料でお願いするのは失礼かな」とかいろいろ考えながら交渉する必要があります.面倒だからやめておこう,となる可能性もあるのではないでしょうか.

JASRACと信託契約を結ぶためには,レコードメーカーのCDで曲が使用されているとか,定員500人以上の有料コンサートで曲が使用されているとか,放送で曲が使用されているといったある程度の実績が必要のようです.また,信託契約申込金として27,000円を支払う必要もあります.音楽業界的には,このあたりがプロとアマの境界ということでしょうか.

僕自身はJASRACに著作権管理委託していませんが,お金儲けを優先するのならJASRACに著作権管理委託するのがいいと思います.

  音楽事務所所属ミュージシャン アマチュア音楽家
著作者 ミュージシャン自身 ミュージシャン自身
著作権者 音楽事務所 ミュージシャン自身
著作権管理 JASRAC ミュージシャン自身
著作権料 JASRACから音楽事務所に支払 自分で徴収しない限りもらえない
曲の利用 ネットの簡単な手続きで
JASRACに著作権使用料を支払
ミュージシャン自身に
メール等で連絡して交渉

音楽著作権の種類

JASRACは,著作権者から預かった著作権を次のような種類に分けて管理しています.

著作権保護期間

日本では,著作権は著作者の死後50年で消滅します.

たとえば,詩人の中原中也は1937年に30歳で亡くなったので,1987年に著作権が切れて,誰でも自由に中原中也の作品を利用できるようになりました.中也の詩に曲をつけた作曲家が多数いるのはそのためです.もし彼が60歳まで生きていたとしたら,著作権が切れるのが2017年ということになり,これほど多くの作曲家が彼の詩に作曲することはなかったと思います.少なくとも,僕が中也歌曲集を作ることはなかったでしょう.

アメリカをはじめ,日本以外の多くの国で,著作権の保護期間が70年になっており,アメリカなどは著作権保護期間を70年に延長するよう日本に迫っています.

僕の個人的な意見としては,著作権保護期間は死後50年でも長過ぎると思います.

著作権表示

よく見る「©2014 Masaaki Wada」のような文言ですが,かつてアメリカ合衆国の著作権法が方式主義(著作権を得るために登録が必要)であった時代に,日本のような無方式主義の国で作られた著作物の権利をアメリカで認めてもらうために表示する必要があったことの名残です.1988年にアメリカ合衆国が無方式主義に切り替えてベルヌ条約に加盟したので,今では世界中のほとんどの国で著作権表示がなくても著作権が自動的に発生します.

著作権表示の根拠であった万国著作権条約においては

を表示することになっていました.今や書式はどうでもいいわけですが,著作権者が誰かという意味で著作権表示をしておくのが親切だと思います.

1.2 原盤権

作詞や作曲に対する著作権とは別に,個々の録音に対する権利があり,原盤権と呼ばれています.著作権法で著作隣接権のうち「レコード製作者の権利」とされているもののことです.

音源制作のためには,作詞・作曲以外に,演奏,録音,ミックス,マスタリングなどさまざまな作業が必要で,そのためにお金がかかります.その費用を出した者に音源を独占的に利用する権利が与えられます.それが原盤権です.

メジャーレーベルが売っている音楽の場合,費用を出すのはレーベルですから,レーベルが原盤権を持っており,その原盤権を使ってCDプレスしたり(複製権),ネットでダウンロード販売したり(送信可能化権),音源が放送に使われた場合に使用料を受け取ったり(商業用レコードの二次使用)して利益を得るわけです.市販のCDを勝手にコピーしたらアウトというのも,この原盤権があるからです.

アマチュア音楽家が自分でDAWソフトを用いて作った音源の場合,原盤権は自分自身が持っているということになります.まあ,行使しないのであれば,権利を持っていることに意味はないわけですが.

原盤権利用料の徴収・分配

日本レコード協会がレーベルに代わり,二次使用料やCDレンタルの権利料の徴収を行っています.日本レコード協会は,日本の大手レコードレーベルが共同出資して作った財団法人です.

たとえば放送局が放送で音楽を使用すると,音楽の使用料のうち著作権料をJASRACに,原盤権料を日本レコード協会にまとめて支払います.日本レコード協会は,受け取った原盤権料を,使用内訳に従って会員であるレコードレーベルに分配するわけです.

日本レコード協会に加盟していない小レーベル所属のミュージシャンやアマチュア音楽家が作った音楽がたとえば放送で使用された場合,原盤権料を請求する仕組みがないので,使用料を受け取ることができません.ただし,インディペンデント・レーベル協議会インディペンデント・レコード協会に委任することにより,日本レコード協会から,二次使用料や私的録音録画補償金など原盤権に関係する使用料の分配を受けることができるみたいです.

  メジャーレーベル アマチュア音楽家
音源制作 レーベル ミュージシャン自身
原盤権 レーベル ミュージシャン自身
二次使用料請求 日本レコード協会 できない
音源利用 レーベル窓口に問合せ ミュージシャン自身に
メール等で連絡して交渉

原盤権表示

原盤権を表示するために「℗」マークが用いられます.ただし,現在ではほとんどの国が無方式主義になっているので,「©」マーク同様,表示しなくても問題があるわけではありません.

1.3 クリエイティブ・コモンズ

アマチュア作曲家なら,無料でいいから自作曲を誰かが使ってくれると嬉しい,というようなこともあると思います.でも,使う側からすれば,著作権があるので無断で使うわけにはいかないですし,作曲者本人に面と向かって無料で使いたいと言うのも気を遣います.けっきょくJASRACにお金さえ払えば気兼ねなく使えるプロの作品にしておこう,なんてことになりかねません.つまり,著作権が壁になって作品を使ってもらえない可能性があるわけです.

作品の著作権を放棄すると宣言すれば,パブリックドメインといって,その作品を誰でも自由に使えるようになります.でも,パブロックドメインにしてしまうと,自分の権利を一切主張できなくなるので,たとえば誰かが無断でその曲を売ってお金もうけしたとしても文句が言えません.それもちょっと悲しい気がします.

そこで考えられたのが,クリエイティブ・コモンズです.自分の作品に,どういう条件ならばその作品を使ってよいかをあらかじめ表記しておく仕組みで,次の6種類のライセンスが用意されています.これらのうちの一つを選んで,自分の作品に表示しておくわけです.

表示とは,誰の作品であるかを表示することが必要という意味です.改変禁止は文字通りで,音楽であれば編曲せずにオリジナル通りに演奏することだけが許されるという意味です.非営利も文字通り,非営利利用ならば使ってよいという意味です.クリエイティブ・コモンズの作品を使って作られた二次著作物に対して,最初の作品の作者が設定した条件が及ぶようにするのが継承です

たとえば,僕は「宿酔」の楽譜をクリエイティブ・コモンズの表示-非営利ライセンスで無料配布しています.作曲者を表示し,かつ非営利目的であれば,演奏,編曲,ネット掲載等自由に行ってかまわないという意味です.

一旦クリエイティブ・コモンズのライセンスで配布してしまったものを,後からやっぱりやめということはできないので,クリエイティブ・コモンズのライセンスを使うかどうかはよく考える必要があります.