2.音高と音程
音高 (pitch)
音の絶対的な高さを表すために,ピアノの鍵盤におけるキーの番号を用い,これを音番と呼ぶ.音番に絶対的な基準はないが,利便性を考えてMIDI規格に従い中央のCの音番を60とする.標準的な88鍵のピアノの場合,左端キーが21,右端キーが108である.
音の高さと基本周波数
音の高さは,物理的には音波の基本周波数で表される.音番69のA音を440Hzとするのが現在最も広く用いられている基準である.その1オクターブ下の57は220Hz,1オクターブ上の81は880Hzというように,1オクターブ上がるごとに周波数が2倍の関係になっている.
平均律
この関係を推し進めて1オクターブを均等に12フレットに分割するには,1フレットにつき周波数を2の12乗根(=1.059463...)倍ずつしてゆくのが合理的である.これが平均律の考え方である.19世紀以降,ピアノをはじめほとんどの楽器は平均律に合わせて調律されている.音番 p と基本周波数 f の関係を数学的に表せば次のようになる.
音番 |
48 |
49 |
50 |
51 |
52 |
53 |
54 |
55 |
56 |
57 |
58 |
59 |
基本周波数 |
130.8 |
138.6 |
146.8 |
155.6 |
164.8 |
174.6 |
185.0 |
196.0 |
207.7 |
220.0 |
233.1 |
246.9 |
音番 |
60 |
61 |
62 |
63 |
64 |
65 |
66 |
67 |
68 |
69 |
70 |
71 |
基本周波数 |
261.6 |
277.2 |
293.7 |
311.1 |
329.6 |
349.2 |
370.0 |
392.0 |
415.3 |
440.0 |
466.2 |
493.9 |
音番 |
72 |
73 |
74 |
75 |
76 |
77 |
78 |
79 |
80 |
81 |
82 |
83 |
基本周波数 |
523.3 |
554.4 |
587.3 |
622.3 |
659.3 |
698.5 |
740.0 |
784.0 |
830.6 |
880.0 |
932.3 |
987.8 |
音程 (interval)
二つの音の相対的な高さの差を音程と呼ぶ.音程は音番の差で表すことができる.ギターで言えば,これは同一弦上で2音を押さえた時のフレット番号の差にあたる.以後,音程を表すために,フレットという単位を用いることにする.1フレットが半音,2フレットが全音,12フレットで1オクターブである.
フレット |
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
伝統的な 呼び方 |
完全 1度 |
短2度 |
長2度 |
短3度 |
長3度 |
完全 4度 |
増4度 |
完全 5度 |
短6度 |
長6度 |
短7度 |
長7度 |
完全 8度 |
音程のフレット数 i と2音の基本周波数の比 r = f' / f の関係を数学的に表せば次のようになる.
フレット |
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
周波数比 |
1.000 |
1.059 |
1.122 |
1.189 |
1.260 |
1.335 |
1.414 |
1.498 |
1.587 |
1.682 |
1.782 |
1.888 |
2.000 |
逆音程
2音p, p'間の音程は,差p'-pのことだが,これはpを基準にp'がどれだけ高いか低いかを示すものである.ここでpとp'の役割を入れ替えて,p'から見たpの音程のことを逆音程と呼ぶ.逆音程は,数字的には元の音程の符号を逆にしたものである.たとえば,3フレットの逆音程は-3フレットである.
セント
1フレットより小さな音程について論じるために,1フレットをさらに100等分し,それをセントという単位で表す.すなわち,100セント=1フレットである.1セントは,基本周波数の比が2の1200乗根 (=1.0005779)となる音程であり,たとえば,440Hzの音に対して1セント上の音の基本周波数は約440.25Hzである.440Hzの基準音を442Hzに変更することは,約8セントの変更にあたる.
一般に,ヒトの耳が聴き分けることができる最小の音程は5セント程度だと言われている.ただし,非常に小さな音程の2音を同時に鳴らした場合には,それらの周波数の差に対応するうなりが生じ,それによって音程を知覚することは可能である.たとえば,周波数440Hzの音と1セント上の440.25Hz の音を同時に鳴らせば,4秒に1回程度のうなりが生ずる.
倍音 (overtone)
一般に,楽器の音には,基本周波数以外に,その整数倍の周波数の成分が含まれている.順次2倍音,3倍音等と呼び,それらをまとめて倍音と呼ぶ.それぞれの倍音成分がどれぐらいの強さで含まれているかは,楽器の音色を形作る重要な要素である.
倍音の基準音からの音程をフレットで示す.
倍音 |
フレット |
|
1 |
0.00 |
基準音 |
2 |
12.00 |
=1オクターブ |
3 |
19.02 |
=1オクターブ+7.02 |
4 |
24.00 |
=2オクターブ |
5 |
27.86 |
=2オクターブ+3.86 |
6 |
31.02 |
=2オクターブ+7.02 |
7 |
33.69 |
=2オクターブ+9.69 |
8 |
36.00 |
=3オクターブ |
9 |
38.04 |
=3オクターブ+2.04 |
10 |
39.86 |
=3オクターブ+3.86 |
11 |
41.51 |
=3オクターブ+5.51 |
12 |
43.02 |
=3オクターブ+7.02 |
13 |
44.41 |
=3オクターブ+8.41 |
14 |
45.69 |
=3オクターブ+9.69 |
15 |
46.88 |
=3オクターブ+10.88 |
16 |
48.00 |
=4オクターブ |
音程がきっちり整数で表される倍音は,2倍音,4倍音,8倍音等の整数オクターブとなる倍音のみである.しかし,3倍音音程は19フレットとの差が2セント程度であるから,実用上19フレットと考えても差し支えない.
一方,5倍音の場合は28フレットとの差が約14セントあり,これは聴き比べれば誰でも違いがわかる程度の差である.
純正律
4フレット音程を同時に鳴らした場合を考えよう.たとえば60のCと64のEを同時に鳴らしたとすると,64の4倍音と60の5倍音の差は 28 - 27.86 = 0.14 フレットであり,それが濁った響きを作り出す.平均律においては,すべての音程は整数フレットに制限されており,この濁りを解消することはできない.しかし,コーラスやヴァイオリンのように無段階の音程調製が可能な場合は,64のEの音を約14セント低く,すなわち60のちょうど5/4倍の周波数の音で演奏することで,この倍音どうしの干渉を解消し,より美しい響きを作り出すことが可能である.実際,歌い手やヴァイオリン奏者は,自分の耳を使って最も美しい響きとなるように演奏するという形で,この調製を自然に行っていると考えられる.
このように,美しい響きを得るために周波数比が簡単な分数となる音程のみを用いようとするのが純正律の考え方である.古来様々な方法で純正律が体系化されてきたが,それぞれ特別な場合に限って美しい音の響きが得られるというものであり,常に美しい響きを得るという意味での純正律の完全な体系化は不可能である.
一方,平均律は,純正律と比較すると,響きの美しさを多少犠牲にすることによって演奏や音楽の体系化を容易にした,いわば妥協の産物である.我々が今日耳にするほぼすべての音楽は平均律に基づいて作られた音楽であり,その意味で,音楽の歴史は純正律の響きの美しさよりも平均律の簡便性を選んだと言える.
以下,平均律に基づいて考察を進める.
⇒3.音類